【多事蹴論(30)】本当のスピードスターは誰なのか――。日本代表が大躍進した1990年代前半のオフトジャパン時代に「チームで一番速いのは誰か」という論争が起きていた。当時の主力メンバーではFW武田修宏、FW福田正博、FW長谷川健太がスピード自慢のストライカーとして知られていた。ちなみにエースのカズことFW三浦知良は「体のキレで勝負するタイプ」と言われていた。
ある日の代表合宿でのこと。福田は報道陣から「速いですね」と聞かれると「俺って、そんなに速いのかな。一番は俺じゃないでしょ。そこは武田じゃないの? 武田は速いよ」と話していたように、武田はダッシュなどの練習でも常にチームメートよりも体一つ先に抜け出しており、ハンス・オフト監督をはじめ誰もが認めるスピードタイプだった。
ただ、チームの内外では「確かに武田は速いんだけど、20メートルとか30メートルなら福田が一番速いのではないか」との意見も浮上していた。武田の場合は走りだしからの5~10メートルくらいのスタートダッシュに定評があり、トップスピードに達するまでの瞬発力が最大の武器。福田の場合は走りだしてからの加速力が他のイレブンよりも優れていると評価されていたようだ。
当時、20代半ばの武田は「スピードは誰にも負けたくないね。年齢を重ねてもスピードはあまり衰えないって聞いているし、ゴール前でDFの裏を狙ったり、DFとの競り合いでも先に抜け出せるとか、スピードで勝負だよ」とコメント。陸上の短距離のように、決まった距離の速さを競うスポーツではないため、それぞれ選手自身が“スピード適性”をプレーに落とし込んでいた。
そんな中、日本史上最高のストライカーといわれ、2002年日韓W杯に向けて日本サッカー協会の強化本部長に就任した釜本邦茂氏がスピード問題に言及。「いくら速くたって、それをプレーに生かせなければ何の意味もないよ。真っすぐ走って速くても、そこにはDFもいるし、GKもいるんだから。ボールに触れなければゴールにならないでしょ」と正論を展開する。
さらに日本代表の歴代最多得点者は「一歩でいいんですよ。一歩で。それで相手の前に入れるんだから。そうすれば(自分の体が壁になって)相手は前に出られない。それだけ。別に何メートルが速いとか、スピードとか、そういうんじゃない。ボールが出てくる前に相手との駆け引きで一歩…その一瞬でいいんですよ。先にボールに触れば勝ちだから」と身ぶり手ぶりを交えて解説した。
一概に「スピード」といってもさまざまな捉え方があるわけだが、スピードを自慢していた武田は「でも、FWは点取らないと評価されないから」と話したように、サッカー界では速さよりも、結果が重視されているようだ。












