【女子テニス】大坂なおみがボイコットを〝撤怪〟 準決勝出場へ

2020年08月28日 11時30分

方針を転換し、試合に出場することを決めた大坂(ロイター)

 新型コロナウイルス禍も吹っ飛ぶ大騒動だ。女子テニスの世界ランキング10位・大坂なおみ(22=日清食品)が27日(日本時間28日)、米ウィスコンシン州で非武装の黒人男性が警官に銃撃された事件への抗議として「ウエスタン&サザン・オープン」(ニューヨーク)準決勝を棄権する方針を転換し、28日(同29日)の試合に出場することを決めた。V大本命ボイコットという非常事態は免れたが、約24時間にわたる“大坂の乱”は世界に大きな爪痕を残した。その背後にはいったい何があるのか? 深層に迫った。

 アッと驚く方針転換だった。

 大坂は26日(同27日)の準々決勝で逆転勝ちし、試合後のインタビューでは満面の笑み。この日は交際中の人気ラッパー、コルダエ(23)の誕生日だけに、さぞ幸せな夜を満喫か…と思われた午後9時ごろ、突然の声明を出した。ツイッターで「私はアスリートである前に黒人女性。テニスをするよりも重要な事柄があるように感じます。白人スポーツの中で会話を始めることができれば正しい方向への第一歩になる」と黒人男性銃撃事件への抗議メッセージをつづり、準決勝ボイコットを表明。これに追随して男子プロテニス協会、女子プロテニス協会、全米テニス協会も「人種差別と社会的不公平に対し、結束して反対するスタンスを取っている」との声明を出し、27日(同28日)の試合を延期すると発表した。

 ところが、ここからが急展開。翌日になって大坂は棄権する方針を取りやめ、一転して試合に出場する方針を固めたのだ。大坂は英紙ガーディアン(電子版)への声明で「私の考えではその方が(抗議)行動に注目がより集まるので」と説明している。主催側としては最悪の事態は回避したため御の字だろうが、今回の行動が各方面に与えた影響は大きい。NBA、大リーグなど他の米プロスポーツでも試合のボイコットが起こり、人種差別への抗議声明を出すアスリートも次々に現れている。

 もともと大坂は5月にミネソタ州で起きた黒人男性暴行死事件でも声を上げ、コルダエが抗議デモで逮捕された際もかばうなど、積極的に人種問題に向き合ってきた。コロナ禍では「いろいろ考えた。たぶん私は以前と違う人になったと感じる」と話し、以前にも増して抗議行動が目立つようになっていた。それを裏付けるような指摘もある。
「ナイキの意向もあるのではないか。会社として人種差別に反対する姿勢を鮮明に打ち出していて、そうした思いをアスリートと共有している部分もある」(事情に詳しいスポーツビジネス関係者)

 大坂は昨年4月からウエアのスポンサーをアディダスからナイキに変更。同社は人種差別問題に断固反対の方針を取っている。2018年には人種差別に抗議して国歌斉唱中に起立を拒否し片ヒザをついたNFLのスター選手コリン・キャパニック(32)を広告に起用した一大キャンペーンを展開。アスリートによる抗議行動をサポートしており、大坂も自身の思いに加えてこうした同社の方針に賛同している側面もありそうだ。積極的な行動を取るようになった時期とも一致する。

 また、前出の関係者は「以前は欧米の大企業は差別や偏見などの問題に踏み込まなかったが、最近は逆に思い切った対応をする流れがある。差別に対して強い反対を前面に出すことで、そうした問題に敏感な若者やマイノリティーからの支持を得て、結果的に企業価値を高めることもある」と分析する。

 キャパニックの広告キャンペーンは全米を二分する大きな議論となり、一部の保守派が同社のスニーカーを燃やすなど反対運動が起きて一時株価も下がった。ところが、こうした一連の騒動が話題を呼んで全世界で広告の露出が激増。結果的に同社史上最高値となる株価85・55ドル(約9120円)を記録した。

 もちろん、ナイキとしては純粋に人種差別問題への反対姿勢からキャパニックを起用したのだろうが、近年は世界的な大企業で積極的に差別問題に取り組むケースも増えており、それが大きなプラスとなるケースも出てきているのだ。

 いずれにせよ、今回の大坂の行動は人種差別問題に一石を投じたのは事実。試合には復帰するが、再び強烈な“けん制”がいつ入るか分からない。その一挙手一投足から目が離せない。

【全米オープン1回戦は日本人対決】出るのか、出ないのか。テニス界を揺るがす“ドタバタ劇”は逆転勝利後から24時間にわたって繰り広げられた。大坂がSNSで棄権を公表した後、大会主催者は中断を決めたものの、公式サイトのトーナメント表には「棄権」の文字が出ないまま日付をまたいだ。

 そして日本時間28日深夜、英紙ガーディアン電子版など一部メディアが「方針転換で出場へ」の一報。最終的に大坂はマネジメント会社を通した声明で「女子プロテニス協会や全米テニス協会からの要請に従い、28日(日本時間29日)にプレーすることに同意した。より抗議運動への注目を集めることができる」と説明。

 大坂は自身の意思を尊重して迅速に大会中断を決めた主催者への感謝も表しているという。エリーズ・メルテンス(24=ベルギー)との準決勝は日本時間29日午前0時から行われる。

 なお大坂は今大会直後に同会場で行われる全米オープン(31日開幕)にも第4シードとして出場予定。1回戦の相手は土居美咲(29=ミキハウス)に決まり日本人対決が実現した。大坂は18年の全米オープンで4大大会初制覇を達成している。