両者の希望と願いがかなう日はいつになるのか。ラグビーW杯イングランド大会で2試合に出場し、1トライを挙げたWTB山田章仁(30=パナソニック)が“二刀流”への思いを語った。2012年にノジマ相模原ライズの一員として、社会人アメリカンフットボール「Xリーグ」に参戦。才能の片鱗をのぞかせた逸材のアメフット再登場をチームは楽しみに待ち、本人もそのつもりでいる。

 12年秋のXリーグに3試合出場し、キックボールから陣地を奪い返すリターナーとして5回、計84ヤードをゲインした山田。アメフット再登場について「もちろんですよ」と明言し、続けた。

「こうやってラグビーも注目してもらっているから、この人気をアメフットに持って行きたいし、アメフットの人気もラグビーに持って行きたい。個人的には新しいチャレンジが好きなので、やりたいなと思っている」

 W杯の激闘を終えたばかりの山田には、7人制ラグビーのリオデジャネイロ五輪アジア予選(11月7、8日=香港)が待っている。リーチ・マイケル主将(27=東芝)ら計4人のW杯戦士が同予選スコッドに名を連ね、山田も「五輪は国民が期待する大きな大会。W杯のエネルギーを次に向けて、しっかりやっていきたい」と意欲を示す。

 トップリーグも11月半ばに開幕。一方でXリーグはシーズン後半戦を迎える。ラグビーの日程やアメフット選手登録の問題もあるため、山田の即復帰はないだろうが、来年以降、チャンスがあれば実現する可能性は残されている。

 W杯では南ア戦とサモア戦に出場し、サモア戦では前半終了間際、体を回転させてタックラーを飛ばし、インゴール右隅にダイブするトライを決めた。「ずっと勉強していたロール(回転)という技が大舞台で結果を残してよかった」。このプレーとの因果関係は言及しなかったが「アメフットの経験もためになっている」と振り返った。

 公式サイトでは「プロ楕円球選手」と自らを位置づけ、ラグビーのパナソニックとともに現在選手登録されていないノジマ相模原ライズも所属先としている。ライズの須永恭通ヘッドコーチ(47=HC)は「今でも試合に招待してくれたり、いろいろとメールで報告してくれる。ラグビーであれだけ成功して、チームメートも喜んでいる」と絆の深さを語る。

 須永HCによると山田は当時ラグビーで行き詰まりを感じ、他競技にきっかけを求めて、関心のあったアメフットに飛び込んだ。面接で100%本気の熱意を感じ、グラウンドに出れば「動きはピカイチ」。けがのリスクにもかかわらず、パナソニックの首脳陣は二刀流に理解を示し、同チームの群馬・太田市と神奈川・相模原を行き来するような形となった。

「ラグビーをやっているので目と手の連動がいいのだろうか、キャッチを上手にこなす。独特のステップも通用した。キレと強さが両方ある。練習も真剣で、ラグビーのすごい選手だというところをみじんも見せず、自分からコミュニケーションをとるので、みんなに慕われた」(同)

 プレーの習得量とラグビー優先による時間の制約を考え、リターナーを選択。「2年、3年続けたら相当いい選手になれる。ランニングバックやレシーバーもできる」。13年11月にラグビーで代表デビューを果たすと欠かせない戦力となり、アメフットに戻ってくる機会は遠のいた。

 Xリーグで残した数字は傑出したものではなかったが、「タッチダウンかというプレーもあった。ラグビーから入ってきた選手の中ではズバぬけている」。アメフット経験を通じて、当時評価が高くなかったとされる当たりを強化しようとしていたように、須永HCには感じられた。

 日大桜丘高から日大、オンワードとQBとしてスター街道を歩み、1999年の第1回W杯(現世界選手権)で優勝、NFL欧州でもプレーした須永HC。その目から見て山田は「また一緒にやりたい。いれば十分戦力になる」と思わせるアスリート。「タイミングが合えばまたプレーしたいとは、ずっと言っている」だけに、その日を待っている。