〝ゴルフ界の長嶋茂雄〟になるためには――。米男子ツアー「ZOZOチャンピオンシップ」最終日(24日、千葉・アコーディア習志野CC=パー70)、65で回った松山英樹(29=LEXUS)が通算15アンダーで優勝。4月の「マスターズ」以来の米ツアー通算7勝目を挙げた。名実ともに世界のトップを走る松山に対し、本紙の取材に応じた国内ツアー通算16勝のレジェンド・鈴木規夫氏(70)は〝AON超え〟を果たしたと指摘するとともに、さらなる飛躍を期待するからこそのアドバイスも送った。

 首位で迎えた最終日。10番を終えて2位に後退する場面もあったが、11番で10メートルを沈めてすぐさま追いつき、13、15番のバーディーでキャメロン・トリンガーリ(米国)を突き放した。最終18番パー5ではイーグルを決めて両手を掲げて渾身のガッツポーズ。終わってみれば2位に5打差をつける圧勝だった。

 日本開催だった2019年大会でタイガー・ウッズ(米国)に届かず、2位だった悔しさを晴らす勝利。松山は「ここで優勝することは1つの目標でもあったので、うれしい気持ちと『マスターズ』を勝った後に、ここで優勝している2年前のタイガーみたいに僕もなれてよかった」と喜んだ。その上で「状態がよくなかった中、勝機があるとしたら多くの方が応援してくれるのが強みだと思っていた。うまく力に変えることができた」と日本のギャラリーに感謝した。

 これに鈴木氏は「メジャータイトルを取った選手として母国の米ツアー開催で勝たなければならない責任感、重圧はあったと思うが、その中での優勝は誰もが認める勝利だった。心から『おめでとう』と言いたい」と祝福。最終日のポイントについては、10番を終えて2位に後退したときに「そこで覚悟が決まったと思う。追う者の強さを発揮できたのではないか。そして(2位と)2打差にした15番のバーディーが勝利を近づけた」と指摘した。

 米ツアー通算7勝は過去の日本人選手では断トツの実績(2位は通算3勝の丸山茂樹)だけに、鈴木氏は「重圧の中で優勝は素晴らしい。これまで活躍してきた日本人選手である尾崎(将司)、青木(功)、トミー(中嶋常幸)らを超えたと言っていい」と〝AON超え〟を果たしたと強調する。日本人初の「マスターズ」制覇だけでその価値はあるだろうが、メジャー大会とはまた別のプレッシャーがかかる状況で勝ち切ったことは「選手として幅が広がった」。大きな価値がある勝利というわけだ。

 その上で〝あえて〟のアドバイスも忘れなかった。「メジャーチャンピオンとして、もっと親しまれるようになってくれれば。ただゴルフがうまいだけではなく、しっかりした受け答え、相手の目を見て話すこと、わかっているつもりだろうけど、自分の言葉がどう伝わるか、もっと考えることが大切」と〝ゴルフ界の顔〟としての心構えを説いた。

 もちろんこれは「松山は老若男女、誰からも尊敬されるヒーローにならないといけない。野球界でいったらヒーローは長嶋茂雄さん。誰からも尊敬されるゴルファーになってほしい」と期待しているからだ。

 現状でも日本のゴルフ界では誰よりも完璧なヒーローに近い存在。今後はプレー以外の部分でも、さらなる成長を遂げることができるか。〝長嶋茂雄化〟は、日本の第一人者だからこその宿命と言えそうだ。

 ☆すずき・のりお 1951年10月12日生まれ。香川県出身。72年に21歳でプロテスト合格。74~78年まで「九州オープン」5連覇を果たし「九州の若鷹」との異名をとった。76年の「全英オープン」では初日に日本人プレーヤー史上初のトップに立ち、10位と好成績を残した。81年には「マスターズ」に出場。国内ツアー通算16勝。現在はコース監修をはじめ、ジュニアゴルファーなど後進の育成にも力を入れている。