山口県阿武町に住む田口翔容疑者(24)が、新型コロナウイルスで困窮する463世帯を対象にした町からの給付金4630万円の誤送金を巡って電子計算機使用詐欺の疑いで18日に逮捕された事件は、カネの流れの解明が急がれる。誤入金の返還を拒んだ同容疑者はネットカジノで使い切ったと話しており、銀行口座の出納記録は明らかになったものの、詳細は不明のまま。詐欺や悪徳商法に詳しい専門家は「第三者を介したマネーロンダリング(資金洗浄)」の可能性を指摘する。

 阿武町側のミスによる誤送金とはいえ、ネットカジノで使い込んでの“逃げ得”は成立させない――。誰もがそんな思いを抱いたことで、今回の事件は日本全国から注目を集めた。18日にようやく田口容疑者が逮捕されたが、これで一件落着というわけではない。4630万円もの大金が返金されるかは、逮捕とは別問題だ。

 大方の見立てでは、田口容疑者は起訴され有罪なら、約3年の実刑となる可能性がある。4630万円は「ネットカジノでスッてしまった」(田口容疑者の弁護士)とのことで、他に財産がなければ返済能力はない状態だ。

 一方、阿武町は、返還請求の民事裁判で田口容疑者に年利3%での延滞利息も求めており、現状でも延滞利息が年間138万円以上かかる計算。「こんなの支払えない」と自己破産する可能性もあるが、債務整理に詳しい弁護士は「今回の件はギャンブル絡みの悪質な案件だけに、自己破産申請を受けた裁判所が免責不許可とし、田口容疑者の返済義務は一生、残り続ける可能性が高い」とみている。

 こうした状況から、詐欺や悪徳商法などに詳しい多田文明氏は、今回の事件に「違和感がある」としてこう分析する。

「まず、口座残高が6万8000円で支払い能力がないにもかかわらず、『4630万円を返還します』っていうのは、詐欺や悪徳商法をする人たちが逮捕されたときの常とう句に似ている。また日頃からネットカジノをやっていたならともかく、今のところそういう話もないので全額使い切ったというのは信じがたい。第三者とつながって悪知恵を入れられ、不正蓄財やマネーロンダリングを行った可能性は否定できない」

 全額をネットカジノに費やしたとの話については、田口容疑者の弁護士によると、実際に同カジノのサイトにチップが残っているかどうかの確認はできていないという。

 多田氏によれば、詐欺などの犯罪者がマネーロンダリングのためにネットカジノを利用することはよくあるという。海外のネットカジノを使うことで捜査をかく乱し、さらにネットカジノから暗号資産などに移し替え、それをさらに別の暗号資産に…といった具合に移し替えていけば捜査は難しくなり、まんまとマネーロンダリングを成功させてしまうというわけだ。

 そんななか、多田氏が注目したのは出金記録に残る“空白の1日”だ。

「田口容疑者は4月8日に誤送金を伝えられ、その日のうちに67万8967円を口座から出金しているが、翌9日は一切カネに手を付けずに、10日から出金を再開している。田口容疑者が1人で出金していたのなら、一刻も早く出金したいときに、この“空白の1日”は不自然。もし第三者が介在していたならば、この“空白の1日”を指示して、マネーロンダリングのための準備に費やした可能性が高い」

 もし悪知恵の働く第三者が介在していた場合、途中の手続きに他人名義や架空名義を利用した“飛ばしケータイ”が使われた可能性もあり、カネの行方を追うことは困難になるという。刑事裁判では罪を償うことになるとみられる田口容疑者だが、4630万円の返金は一筋縄ではいきそうもない。