“プロレスリングマスター”こと武藤敬司(57)が、「新時代のプロレス」構築への思いを語った。19日配信の「ノアTVマッチ」への参戦が決まり、“IQレスラー”桜庭和志(50)との超刺激的な初対決へ意欲満々だ。新型コロナウイルスの感染拡大により無観客試合の開催が続くマット界の現状を受け入れた上で、36年目のキャリアにして新たな挑戦と位置づけた。

 会長を務めたW―1の無期限活動休止に伴い、武藤は3月末でフリーに転身した。ノア参戦に向け「貴重な4月の唯一の収入源だよ、これが。あとは全部(試合が)飛んじまったからさ。一生懸命しないと、ほんと」ときっぱり。電話取材にもかかわらず、親指と人さし指の動きがはっきり見えた気がした。

 新型コロナの影響でプロレス界は、無観客大会の動画配信で活動を続けている。経験豊富な武藤ですら、ライブの空気感が読み取れない世界は難解で「俺たちベテランって、お客の雰囲気で(動きを)変えるようなプロレスをしたいのにさ。それが立体的じゃない、面の試合になっちゃうもんね」とつぶやく。

 しかしその一方で「難しさはあるけど、そういう時代。これからは(画面の)向こう側を意識した試合ができるやつしか生き残れないと思うんだよね。これはWWEしかり新日本プロレスしかり、(ターゲットが)ネットの世界じゃん」と分析。映像ビジネスを中心に業界のグローバル化が進んでいたさなかのコロナ禍は、その動きを加速させると予測する。

 この状況下で対戦を心待ちにするのが、杉浦軍のメンバーとして参戦する桜庭だ。「プロレスラーとしての作品をあんまり知らねえから、総合格闘家って印象。グレイシー柔術か、見てたよ当時の激戦を、まさしくテレビで。そういう意味で視聴者をくぎ付けにしていたのは桜庭だよね」と語り、動画配信マッチへの適応能力は高いと見る。

 対戦カードは未定で当日発表となっているが、仮に両者の対決が実現すれば注目を集めることは確実だ。「桜庭と俺で、新しいプロレスをつくり出そうぜって。画面越しによく映るプロレスだよな。アイデアはまだねえけど、戦って構築するわけだ。新時代だからさ」と新たな“化学反応”に期待を寄せた。

 歴史を振り返れば、新日プロとUWFインターナショナルの対抗戦(1995年10月9日)での武藤と高田延彦の一戦は、プロレス史に残る最高傑作として語り継がれる。その高田にかつて師事した男と「新しいプロレス」を模索するのも何やら運命じみている。「どういうものになるのか分からないけど、とにかくこのご時世だからさ。やっぱり見てる人を元気にさせられるような試合だよな」。天才が、暗く沈む日本マット界に一筋の光明をもたらす。

 武藤と高田の「10・9決戦」は、平成のプロレス史に残る激闘として語り継がれている。因縁浅からぬ新日プロとUインターの全面対抗戦が実現した東京ドーム大会は、平日開催にもかかわらずチケットが即完売。超満員札止めの6万7000人(主催者発表)を動員し、空前の盛り上がりを見せた。

 メインは当時IWGPヘビー級王者だった武藤と、Uインターの絶対的エースに君臨していた高田の大将戦。ともに時代を代表し、団体を象徴するトップ選手同士の激突となった。格闘技色の強いUWFスタイルの頂点にいた高田を、武藤がドラゴンスクリューからの足4の字固めというクラシカルなプロレス技で仕留めたインパクトは絶大だった。

 当時Uインター所属の桜庭もタッグ戦(桜庭、金原弘光組VS石澤常光、永田裕志組)に出場した対抗戦は、5勝3敗で新日プロに軍配。その後も両団体の抗争は続いたが、結果的に10・9決戦から1年2か月後の96年12月にUインターは解散を迎えた。