もしも「この人、鉄道ファンかも。聞いてもいいかな?」と探りたくなったら、その人の耳元で「名鉄築港(ちっこう)線」とささやいてみてください。ピクッと反応したら、間違いなくその人は鉄ヲタだと思います。なぜなら築港線は、鉄道ファンの聖地だからです。

 その聖地は、名古屋の大手私鉄である名鉄にあります。名古屋港に向かって延びており、全長わずか1・5キロで2駅しかありません。でもこの短い区間に、鉄ヲタドリームが詰まっているんです。

 ここは普段、工場で働く人の通勤用として使われているため、朝夕の時間しか列車は走っていません。なので9時台~15時台の運行はないんです。

 乗車して耳を澄ませていると、ガタンゴトンという規則正しい音が、1か所だけ「ダダッダダッ」と短くなることに気付くと思います。これ! これなんですよ!! この走行音を聞くために、乗車した鉄道ファンは全神経を耳に集中させます。

 ここは2本の線路が垂直に交わる“ダイヤモンドクロス”と呼ばれる珍しい場所なんです。

 交差するのは、貨物輸送を行う名古屋臨海鉄道の東筑線。過去には、テレビで放送された鉄道ファン向けのクイズで「この走行音は何線でしょう?」なんて問題も出題されました。

 終点の東名古屋港駅も必見です。ホームの出入り口の真ん中に「ちょっとジャマなんじゃない?」と思えるほど、太いコンクリートの柱が屋根を支えています。これは平成3年、都市部用の短いリニアモーターカー開発のために造られた実験線が、駅の上にあった名残なんです。いわば、リニアの廃線跡! 柱にゾクゾクしちゃいます♪

 終点なのに、線路は港に向かってまだまだ延びています。これは全国各地で使われなくなった車両や、製造注文を受けた列車をここまで運んで、船に載せて海外へ輸出するためのもの。運が良ければ激レア車両に会えますよ。

 私は以前、長崎県を走る松浦鉄道の列車を目撃して、興奮のあまり海に沈む夕日に向かって叫んだことがありました(笑い)。

 ここで木村ポイント! 起点の大江駅から乗車して進行方向の右側を見ていると、線路のない広場に列車が無造作に置かれていることもあります。これは列車の解体場。廃車となって解体を待つ車両たちを目撃した時は、なんともアンニュイな気分になってしまうのも、この路線のポイントです。それでは、短くてもドラマが詰まっている名鉄築港線へ、出発進行~!

☆きむら・ゆうこ=1982年8月17日生まれ。愛知県出身。鉄道をこよなく愛する鉄旅タレント。2015年にはJR、私鉄、地下鉄、ケーブルカー、モノレールなど、日本全国にある鉄道を全線乗車する「日本国内鉄道全線完乗」を達成。乗車した走行距離は約2万8000キロメートル。