【久保康生 魔改造の手腕(18)】必ずボールは重力で下に落ちます。縫い目を利用し、ボールをどういうふうに回転させ、空気抵抗と乱気流でボールの軌道を変化させる。そこには慣性モーメントがあって、ボールを強く回転させれば、外周の縫い目と空気がぶつかって曲がったり落ちたりという動きが発生します。

 まあ、こんなことを頭で考えながら実際にプレーする選手は少ないとは思いますけどね。ただ、知っておくことは大切なんです。

 無風の状態で球速170キロの投球を、どれぐらいのスイングスピードでどの角度で打てば、どれぐらい飛ぶか。現在ではトラックマンデータを利用することも普通になりましたが、以前はそういう概念も一般的ではありませんでした。

 私は以前からそういった物理に興味があり、ある文献を参考に知識をインプットしていきました。そうするともう面白くてね。地球上の通常の気圧でナックルボールを何キロで投げたとき、その放物線を中心にボールが何センチ動く可能性があるのかなど、いろんな例を知りました。

 投手が145キロの速球でホームに向かって投げたとき、1マイルにつき何インチずつボールが下に下がっていくとか。決してボールはホップしない。ホップしているように見えるのは目の錯覚だとかね。

 ちょっと頭で考えながらではプレーはできないんですが、ちゃんと理屈をわかっているのとそうでないのとは大違いなんです。

 理屈を分かって取り組む方が、技術的にマスターするという境地にたどり着くまでが早くなるんです。

 ピッチャーを指導していくときに、この選手は体を縦回転で使っていくように導くのか、それとも横回転でいくのか。それを見極めた上で、力の使い方を自然の力学的な原理をベースに伝えていくんです。

 質量のあるものは重力で下に落ちていくという原理原則。エネルギーは上から下にシンプルに落ちていく。それを理解した上で選手が自分でピッチングフォームを作っていくんです。こうしろ、ああしろではなくて、自分の体に合わせた投げ方をつかんでいくんです。

 今、体が開いてるからとか、肩をもっと残せとかじゃ伝わらないんです。それは知っているけど、どうすれば体が開かないのかが知りたいわけですよね。

 体の動き、構造はこういうふうになっていて、こういう動作を入れたら、力学的に体は自然と動くっていうことを伝えてしまう。それを理解した選手は「じゃあ僕はこう動いた方がいいんじゃないか」って、自分の体をコントロールしだすんです。

 分かりにくい高度な言い方だけではなく、分かりやすい言葉にして伝えるのも大事です。ビルの隙間の細い、細い路地をすり抜けるには体を横にして進みますよね。広い場所に出たらやっと体を正面に向けることができる。この動きを連想すれば、体の開きはギリギリまで抑えることができたりします。

 大塚晶文にしても岩隈久志にしても、近鉄のコーチ時代に指導させてもらった投手たちには、まずそういう部分から入り込んでいってもらいました。

 物理的な原理、原則を伝えていったんです。その結果、技術的に迷ったときには戻る場所ができる。私の手を離れても、フォームを崩した時は、シンプルなドリルでいい状態に修正することができる。だからこそ、メジャー移籍を経験するなど息の長い選手になってくれたんだと思っています。

 ☆くぼ・やすお 1958年4月8日、福岡県生まれ。柳川商高では2年の選抜、3年の夏に甲子園を経験。76年近鉄のドラフト1位でプロ入りした。80年にプロ初勝利を挙げるなど8勝3セーブでリーグ優勝に貢献。82年は自己最多の12勝をマーク。88年途中に阪神へ移籍。96年、近鉄に復帰し97年限りで現役引退。その後は近鉄、阪神、ソフトバンク、韓国・斗山で投手コーチを務めた。元MLBの大塚晶文、岩隈久志らを育成した手腕は球界では評判。現在は大和高田クラブのアドバイザーを務める。NPB通算71勝62敗30セーブ、防御率4.32。