広島は8日、野村謙二郎監督(48)が就任5年目の今季限りで辞任すると発表した。惜しまれながらユニホームを脱ぐことになった野村監督について、師匠でもある本紙専属評論家の大下剛史氏が、最後の勝負、ポストシーズンに向けて熱いエールを送るとともに、今年3月の開幕カードでの秘話を明かした。

【大下剛史:熱血球論】あえて「お疲れさん」とは言わない。まだ、戦いは終わっていないからだ。野村監督も辞任発表を「最後の勝負手」と捉えていることだろう。CSという大事な戦いを前に自らの“命”をささげることで、選手たちを奮い立たせる――。人一倍負けん気の強い勝負師である彼らしい引き際だ。

 野村謙二郎との付き合いは20年以上になる。同じ駒沢大学野球部OBとしてカープに入団した彼を当時ヘッドコーチだった私は徹底的に鍛え上げた。いや、しごきまくった。汗と泥にまみれながら必死にもがいていた苦難の時代を知っているからこそ、謙二郎への思い入れは他の誰よりも強い。そして私と彼にしか分からない“絆”もある。

 今だからこそ明かせる話だが、野村監督とはこんなやりとりもあった。忘れもしない今年3月29日、ナゴヤドームで行われた開幕カード2戦目の対中日戦。試合前のベンチ裏通路で私は彼に「頑張れよ。勝って辞めるんだ。負けて辞めるんじゃないぞ」と声をかけた。

 この時点で、謙二郎が“勝っても負けても今季限り”と腹をくくってシーズンに臨んでいたことは分かっていた。それゆえ「頂点の座を奪い、有終の美を飾れ」という意味の言葉を贈ったのである。すると謙二郎は私の目をしっかりと見つめながら、力強く「分かりました!」と答えた。

 時間にすれば、たった30秒ちょっと。しかし、それだけで謙二郎の覚悟は十分に伝わってきた。「以心伝心」というものだ。

 残念ながらチームは23年ぶりのリーグ優勝を果たせず、3位に終わりCS本拠地開催権も逃した。それでも30年ぶりの日本一奪回への道が閉ざされたわけではない。このタイミングで辞任を発表した野村監督の覚悟を無駄にしないためにも、カープナインは是が非でも奮い立ってほしい。

 甲子園で阪神を打ちのめし、東京ドームでも思いっきり暴れて巨人にリベンジを果たす。そして最後の日本シリーズで頂点をつかむ。そういう野村謙二郎の“男の花道”を見たい。

(本紙専属評論家)