プロレス人生で、勝利の後に涙を流したのは一度だけ。その涙には、意外な理由があった。2003年10月、WWEで浅井嘉浩(ウルティモ・ドラゴン)との初対決を制したTAJIRI。長年追い続けた相手に勝った感激の涙と思いきや、実際はそうではなかった。

「実はね、うれしくて泣いたわけじゃなくて、一応泣いた事実はつくっておいた方がいいなって気持ちが半分以上あって。それで、何とか泣いたっていう感じなんです」。長年の憧れを乗り越えた感動的なエピソードには、そんな事情があった。涙の理由を飾ることなく語ったTAJIRI。プロレス人生で一度きりの出来事は、思いがけない告白となった。

 もっとも、浅井に勝利したことの意味まで軽くなるわけではない。TAJIRIはプロレスラーとして勝つことについて、興味深い言葉を残している。「格で勝つのは難しいんです」。プロレスの世界には、目の前の勝敗だけでは測れないものがある。

 かつては手の届かない存在だった浅井と、WWEではクルーザー級王者として向き合った。世界中に放送されるテレビ番組で実現した一騎打ち。TAJIRIが積み重ねてきた年月を考えれば、その舞台に立つこと自体が大きな意味を持っていた。

 浅井との一戦は、TAJIRIにとって特別な節目となった。長年追い続けた相手との初対決で手にした勝利。その結果は、大学時代から浅井の背中を追い、メキシコ、米国と舞台を移してきたTAJIRIの歩みを象徴するものとなった。