企業努力は水泡に帰したのか――。10月1日、ビール、発泡酒、第3のビールの酒税がついに一本化される。流通ウォッチャーの渡辺広明氏はその歴史を「失われた30年」と重ねる。「安いビール」を巡る競争はどこへ向かうのか。酒税改正を機に大きく変わるビール市場の行方を追った。
10月1日から酒税法が改正され、ビール、発泡酒、第3のビールの税率が統一される。350ミリリットル換算で54・25円となり、ビールは約9円の減税となる一方、発泡酒、第3のビールは約7円増税される(チューハイなどその他発泡性酒類も約7円の引き上げ)。
この方針は2017年税制改正で決定した方針によるもので、ビール系飲料は過去2回(20年10月、23年10月)の税率変更を経ていよいよ一本化されることになる。
既にスーパーでは駆け込み需要が高まっているが、ビールメーカーはブランドとして認知が広がっていた第3のビールを本物のビールへと“昇格”させることを発表。サントリー「金麦」、アサヒ「クリアアサヒ」、キリン「本麒麟」、サッポロ「GOLD STAR」「麦とホップ」は正真正銘のビールとなる。
「約30年にわたる、政府とビールメーカーのいたちごっこがようやく終わりますね…」と感慨深く語るのは渡辺広明氏だ。
発泡酒市場の起点となったのは1994年、サントリー「ホップス<生>」だった。同社HPの研究開発ヒストリーの中では、「バブル経済の後、低価格輸入ビールが登場する中で、日本のお客さまの嗜好に合う美味しくて、かつ価格面でも喜ばれる商品の開発が具体化した」と振り返っている。
味を損なわぬよう麦芽比率を下げ、ビールの約3分の2という価格を実現した発泡酒は大衆の支持を得て市場を急速に拡大。すると政府は2003年に発泡酒を増税。だが翌04年にはサッポロが「ドラフトワン」で第3のビールというフロンティアを切り開いた。
「安いものを飲みたい消費者と高い酒税。その2点にメーカーの開発者が研究で挑んで出した答えが発泡酒や第3のビールだった。しかも『失われた30年』とほぼ重なっていて、こうした経済的背景が発泡酒というガラパゴス市場を生んだのです。今回の酒税改正は大きな転換点で、これからは国内だけでなく世界市場に向けたビール開発に注力することになるでしょう」(渡辺氏)
では、発泡酒がなくなるのかといえば答えはノーだ。キリンのロングセラー「淡麗グリーンラベル」は今年4月、10月の値上げを見据えて大幅リニューアルを実施。同社は「健康意識があるものの機能系ビール類にエントリーしていないお客さまは多く、『健康は気になるけれど、おいしくビールは楽しみたい』という気持ちに応えることに市場拡大のさらなる機会があります」と説明した。
「発泡酒は安いから飲むではなく、糖質オフやプリン体ゼロといった明確な機能訴求へとシフトしていくでしょう。もちろん酒税改正で10月以降、ビールのシェアは一気に上がることになる。ただ現実にはビールの中にプレミアム、スタンダード、エコノミーのような3つの価格帯によるすみ分けも起きるでしょうし、第3のビールはエコノミービールになると考えればいい」(渡辺氏)
なかでも激戦区となりそうなのはエコノミー帯だ。イトーヨーカドーは今月16日から、低価格プライベートブランド(PB)で「セブン・ザ・プライス ラガービール」(330ミリリットル)を順次発売。10月からは6本入りを910円で販売する見込みで、そうなれば1缶152円。
ドン・キホーテを運営するPPIHも1缶あたり164円、カインズは1缶あたり138円のPBビールを売り出しており、大手メーカー対小売りの構図が鮮明となっている。
「PBビールのほとんどはベトナムなど海外ビールメーカーに製造委託したものです。大量発注というスケールメリットのほか包材や広告宣伝費を削って限りなく低価格に近づけたもの。一方で日本のビールを海外で売るシナリオも見えてきています。アサヒは国内でシェア1位ですが、生産量では世界7位。それでもM&Aを繰り返して事業利益の約6割を海外で稼いでいます」(渡辺氏)
消費者が安さを最優先するなら、国産にこだわるかどうかが一つの分岐になる。そして、大手メーカーにとっては、安いビールをどう実現するかという競争の舞台が、税制からグローバル・サプライチェーンへ移ることになる。
☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。















