朝、函館で水揚げされた魚が、その日のうちに新宿で味わえる時代がやってきた。くら寿司のプレミアムブランド「無添蔵」が北海道新幹線を使った鮮魚輸送を武器に新宿へ進出。回転ずしの枠を超えた物流革命は、果たして食の満足度まで変えたのか。流通ウォッチャーの渡辺広明氏と日本酒好きの石川奈津紀アナとともに“現場検証”した。
回転ずしチェーン「くら寿司」のプレミアムブランド業態「無添蔵(むてんくら) 新宿店」が7月9日にオープンした。
「無添蔵」は当初、関西エリアに4店舗だけだったが、昨年5月に中目黒店で関東初出店。隠し包丁などひと手間かけた調理や数量限定の上質なネタが好評を博し、店内空間も“大人の隠れ家”に変化させた。皿回収ポケットに5枚入れるたびにゲームが始まる「ビッくらポン!」も“封印”するという徹底ぶりだ。
とはいえ、高価格・高付加価値のグルメ系回転ずしも群雄割拠であることはよく知られるところ。それでも渡辺氏は「注目すべきポイントがある」と解説する。
「北陸新幹線で鮮魚を運ぶというのは既に(中目黒店オープン時に)導入していましたが、今度は北海道新幹線で、朝に函館で水揚げされた魚を運んできます。これは2021年からJR東日本が始めた列車荷物輸送サービス『はこビュン』を利用したものです。また、関西エリアの『無添蔵』でもJR西日本、JR九州とタッグを組んで、鹿児島中央駅から新大阪駅へ運ぶルートを確立済み。要するにくら寿司は全国の地方から都市圏へ新幹線で鮮魚を運ぶネットワークを押さえたというワケです。大手ならではの“大きな一手”です」
その価値がどれほどなのかは実際に体験してみるしかない! 日本酒の品揃えも豊富という情報を事前キャッチしたので、渡辺氏とともにリ酒師の資格を持つ石川奈津紀アナウンサーと「無添蔵 新宿店」を訪れた。
寿司レーンに時折流れてくるおつまみに反応しつつ、純米酒三種飲み比べ(980円)をさっそく注文したのは石川アナ。
「アジの骨せんべいが180円って安くないですか? カウンター席もあるし、おひとり様でも楽しめそうですね。昼間から飲めるのも◎です。やっぱり日本酒とおすしの相性は抜群ですね。一般的に日本酒が持つ本来の魅力は『甘酸辛苦渋(かんさんしんくじゅう)』と言われます。塩味(えんみ)はありませんが、おすしや肴がそれを補完してくれる。私のお気に入りは北海道産炙りとろにしんです」
誰もが知っている「獺祭」(山口県)から、スラムダンクが由来になった「三井の寿」(福岡県)、美食家にも愛される「鳳凰美田」(栃木県)まで通をうならせる日本酒ラインアップだ。
くら寿司広報部の小坂博之マネージャーがおすすめしてくれたのは、新宿店限定の「夏の旬魚肴盛り合わせ」(2780円)。蒸しあわび、いわし薬味巻、たこ柔らか煮、たちうお南蛮、すずき昆布〆、はも梅しそ天、あなごの一夜干しが、彩りよく大皿で供される。かなりのボリュームなので3~4人でお酒を楽しむ際にもってこいな一品だ。
静岡県浜松市出身の渡辺氏が目を向けたのは、おすしとお茶のペアリングだ。「茶師十段」を有するプロフェッショナル・池田研太氏監修で、すしネタとの相性を考えて、玉露やほうじ茶など日本茶が選定されている。
「フツーの湯飲みはプラスチックだけど、こちらはちゃんと磁器だね。ちょっと大きい気もするけど砂時計も一緒に渡してもらえるから最適な抽出時間が分かるのがありがたい。なるほどね、玉露はウニの濃厚な旨みをさらに引き立てるのか…。抹茶を使ったタイ、サーモン、あなご天も面白いね」(渡辺氏)
北海道から地魚が届くのは今のところ毎週水曜と日曜で、店舗での提供は夕方以降(入荷曜日は季節によって変更の可能性あり)。この時期は北海道から届く「はっかく」「おおずわいがに」「くろそい」「青つぶ貝」「やなぎのまい」が旬を迎えているという。もちろん数量限定でネタがなくなり次第終了。
すっかり満腹になった渡辺氏が現地取材を総括する。
「トラックドライバーの時間外労働に上限が課されたいわゆる2024年問題で、全国のドライバー不足はより深刻になっています。その点、新幹線輸送はモーダルシフト(輸送手段の転換)として期待されるものだし、速さ、正確さ、安定性も兼ね備えている新しい物流サービス。今年3月からは荷物専用新幹線(盛岡―東京間、平日1往復)も運行が始まっています。既に個人利用可能なサービスも始まっていますし、何より定形(最大120センチ以下、30キロまで)であれば、積みやすい、機械で仕分けやすい、宅配ボックスにも入りやすいといった“当たり前”が広がることを期待しています」
物流とは動脈。ただ一方的に恩恵を受けるだけでなく、再配達の削減に努めるなど一人ひとりが支える側の意識を持つことが大切だ。
☆いしかわ・なつき 宮城県仙台市出身。NHK山形放送局のキャスターに採用され、仙台放送局にも勤務。その後フリーアナとしてTBS NEWSキャスターを務める。BSテレ東「日経モーニングプラスFT」。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。日本酒学講師も務める。
☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。

















