責任や業務は激増するのに報酬や権限が見合っていない――。そんな構造的な問題から「管理職は罰ゲームだ」という風潮が広がり、多くの従業員が昇進を望まなくなってきている。もちろん、これでいいワケがない。そこで「心が動くマネジメント物語」の著者で、大企業500社以上で人材育成を手がける(株)FeelWorks代表の前川孝雄氏に、管理職を取り巻く環境の変化と求められる役割について聞いた。
――強い指導をすれば「ハラスメント」、部下に残業をお願いしたくても「働き方改革」の影響で難しい。現代の管理職は八方ふさがりなのでは
前川孝雄(以下前川)その通りですね。今の2つに加えて「キャリア支援」が管理職の3大負担だと調査で明らかになっています。だから1on1ミーティングが大はやりしているわけです。しかもバブル世代の定年が目前、さらに少子高齢化で若者が減ってきた今、企業は若い労働力の確保を急いでいる。初任給の引き上げが起こっている背景にはそうした事情があります。管理職罰ゲーム論には複合的な要因があり、社会構造に由来する問題でもあるというのが私の認識です。
――初任給の引き上げは大いに結構。でも長い間、給与が上がらなかった氷河期世代(=昭和45~57年生まれ)の待遇も一緒に改善してほしい…
前川 でしょうね。氷河期世代で上司(管理職)になっている方は、おおむね、就職した会社の中でどう昇進していくかがキャリアでした。しかし、その子供世代と重なる今の若者は会社の厳しさを親からも聞かされており、就職先に自分の人生を預けるという意識を持てない。だから若者にとってキャリアとは、自分の市場価値をいかに高められるかに変化しているんです。「育てる」の意味合いが異なるんですね。
――転職できるようにポータブルスキルを身に付けたい気持ちは分かります。が、ワークライフバランスを重視してぬるま湯に入った挙げ句「スキルが得られないので辞めま~す」は腑に落ちない
前川 上司から見ると若者が功利的に見えるのかもしれません。私は青学大で16年キャリア講座の講師を務めていますが、とがった学生はほんの一部で、大多数が“不安の塊”です。本音は安定志向で、大企業で一生過ごしたいと思っている。それはなぜか。Z世代が育ってきた環境に経済不安がつきまとっていたからです。税や社会保険料の家計負担が増える一方で国の教育予算は低く抑えられてきたため、大学生の2人に1人が奨学金を利用していて、平均借入総額は約300万円。奨学金とはいえ給付型は少なく、ほとんどが貸与型。つまり借金です。金利が上がり始めた世界で不安はますます膨らんでいます。だから単に上司対若手社員に閉じた話ではなく、日本の社会課題だと認識すべきでしょう。
――なるほど、オジサンとは異なる不安を抱えていることは理解できました
前川 多様性、いわゆるダイバーシティー経営も求められていますが、私はただ多様な人が集まるだけではダメだと考えています。多様な人が生きるには全社員が共感して一致できるパーパス(=社会的な存在意義)が不可欠。大体、長く続いている企業の創業経営者というのは、いい意味でクレイジーですから、存在そのものがパーパスや企業理念を体現しています。しかし、2代目、3代目、あるいはサラリーマン経営者になるとそれらが薄れて、いつの間にか四半期決算といった目先の数字をどう出すかに追われてしまう。目的と手段が入れ替わっているわけです。せっかくパーパスに共感して入社したものの現場のマネジメントが乖離していたら若手社員を失望させる要因となってしまいます。
――前川さんは2010年に「勉強会に1万円払うなら、上司と3回飲みなさい」という本を出しています。今はキャリア支援といえば1on1ミーティングですが、飲みニケーションの価値は変わっていませんか?
前川 はい。その本は飲み会を推奨したものではなく、経験を積んだ上司世代とのフランクな対話の場はキャリア形成に有効だとしたもので、今も本質は変わりません。当時は少々誤解されましたが…(笑い)。実はコミュニケーションのために飲みに行きたいと思っているZ世代の若者は結構いるんです。ところが40~50代の方が敬遠している。つまり15年以上たって、勉強会で自己武装に励んでいた世代が上司側になって、Z世代の部下を「今の若者は飲まない」と決めつけているふしもあると思います。なので部下が上司を誘う形がいいかもしれません。
――AIの進化によって中間管理職がなくなるというような主張もあるが、この先の管理職はどうなる?
前川 AIの進化はドラスティックで予測しきれません。タスクや業務管理はAIが担った方が効率的かもしれません。しかし、本当の意味で人を育て生かす役割は残ってほしい。チームをつくれる力が管理職のコアになっていくでしょう。サッカー日本代表を見ていても思いますが、年齢も所属クラブも違う個性の強い選手たちを導くには、やはり森保一監督のようなプロフェッショナルマネジャーが必要ではないでしょうか。ビジョンを語り合うことで帰属欲求を刺激し、持ち味を生かした役割を任せることで承認欲求を満たし、裁量を与えることで自律性を育む。成功体験を積ませることで有能感を高める。つまり内発的動機付けができる上司のニーズはむしろ高まると考えます。
☆まえかわ・たかお 1966年、兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成支援の(株)FeelWorks創業。「上司力(R)研修」などで500社以上を支援。著書は「心が動くマネジメント物語 誰も教えてくれなかった管理職の喜び18話」「本物の上司力」など約40冊。















