バレンタインにチョコレートをもらえなかったとしても、もう恥じる必要はありません! 義理チョコ文化は消えても、百貨店のバレンタイン商戦は今年も熱気ムンムン。流通ウォッチャーの渡辺広明氏(58)が、分析と現場取材からそのワケを読み解く。

高島屋「アムール・デュ・ショコラ」のカタログにはコスメやアクセサリーのカタログもついてくる
高島屋「アムール・デュ・ショコラ」のカタログにはコスメやアクセサリーのカタログもついてくる

 男にとって、にわかに信じがたい話である――。松屋銀座が今月発表した「2026年バレンタインに関する意識調査」によると、今年のバレンタイン予算の“自分チョコ”がアンケート実施以来、過去最高額の1万円を突破し“本命チョコ”の約2倍になったという。

「バレンタインって学生時代からあんまり気にしたことないです。友達がチョコを渡した、もらった…みたいな話は聞いたことありますけど、自分には関係ないし、義理チョコなんてもらったら負担になるだけじゃないですか」と20代男性はクールに話す。

 一方、50代男性はチョコをもらえて当たり前だった時代を懐かしむ。

「確かに昔は家でも職場でもスナックでももらいましたね~。バレンタイン文化がなくなったと思っていたけど“自分チョコ”の予算が1万円!? なんでそんなに高いの? やっぱり女性って自分のために使うお金があるんだよな…(苦笑)」

 記者(40代)もバレンタインなんてオワコン(終わったコンテンツ)だと思っていたが、渡辺広明氏は「それはアナタが終わっているだけ! バレンタイン商戦は百貨店業界にとって最後のとりでだから各社が注力しているんです」と熱弁を振るう。一体どういうことなのか説明してもらおう。

①カカオショック
「ガーナやコートジボワールなどカカオの生産国が異常気象に見舞われ、世界的に生産量が減少しています。数年前と比べると原材料費は2倍以上。当然、値上げせざるを得ませんが、すべてを価格転嫁したら客が離れてしまいます。メーカーはカカオ使用量を減らしながら風味を損なわないようにしたり、カカオ豆を使わない『代替チョコ』の開発も進んでいます」

松屋銀座が公開したパティシエによるデセールコース(ドリンクのペアリングつきて1万7600円、渡辺氏提供)
松屋銀座が公開したパティシエによるデセールコース(ドリンクのペアリングつきて1万7600円、渡辺氏提供)

②訪日客最多からの暗雲
 国交省の発表によると、2025年の訪日外国人客数は約4270万人となる見通し。消費額は9・5兆円程度でこちらも過去最高を記録した。
「インバウンドが増えたのは良かったんですが、そのうち約21%(910万人)が中国人客。ご存じの通り、高市首相の台湾をめぐる発言で中国は日本への渡航自粛を求めるなど先行きが不透明になりつつあります。実際、12月は45%減となり、空港の免税店では中国人向けの販売戦略見直しを迫られているほどです」

③女性客と“再接続”する重要タイミング
 百貨店といえばブランド品やデパコスなど高級なイメージがあるだろう。実際、それらは女性客を引きつけるが、売上構成比で見ると化粧品や美術・宝飾・貴金属はそれぞれ10%弱。売上高でいえば衣料品と食料品で50%を上回っており2本柱と捉えるのが正確だ。

「百貨店の場合、女性のお客さまが6割。松屋のアンケートでも分かるように、百貨店の店頭でチョコを買う理由は『1か所で多くの種類のチョコが見られるから』が一番強い。これはただチョコを売るのではなく百貨店の編集力、ただの売り場ではなく体験も楽しめる、日常ではなくハレが求められているという証左なんです。大げさに言えば、バレンタイン商戦というのは百貨店にとって、主要顧客である女性と年に1回“再接続”できる重要なタイミングというわけです」

 論より証拠、百聞は一見にしかず。1月最終週、記者は渡辺氏と新宿高島屋の「アムール・デュ・ショコラ2026」に向かった。

平日午前でも人だかりができる「アムール・デュ・ショコラ」
平日午前でも人だかりができる「アムール・デュ・ショコラ」

 平日午前中にもかかわらず催事場のあちこちで有閑マダムが列を成している。訳も分からず並んでいたのは「シェ・シバタ」が明治「たけのこの里」をモチーフに創作したボンボンショコラ「アルティメットタケノコ」(3個、2592円)の列だったが、数人前で完売となり惜しくも購入ならず。開店1時間もたたぬうち売り切れるとは驚きしかない。

シェ・シバタの「Ultimate-Takenoko」は3個で2592円(明治のホームページから)
シェ・シバタの「Ultimate-Takenoko」は3個で2592円(明治のホームページから)

 会場マップとカタログを片手に、小さくて宝石のようなショコラの数々を見てはその値段に驚く。義理チョコで買える金額ではない。店員さんが丁寧にこだわりを説明してくれる。女性客は楽しそうだ。自分のためにチョコレートを選ぶ至福の時間。イートインのカカオのコースは11時からで各回1時間で5500円だという。

 バレンタイン商戦はまだ確かに熱を帯びている。ただし、そこに男性の入り込む余地は少ない。贈り物から女性自身が楽しむイベントへと形を変えて続いているのだ――。

☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。

一番人気と評判のジャン=ミッシェル・モルトローのショコラを購入した渡辺広明氏
一番人気と評判のジャン=ミッシェル・モルトローのショコラを購入した渡辺広明氏