ドジャースの今オフの動きが、再び注目を集めている。タイガースのサイ・ヤング賞左腕タリク・スクバル投手(29)獲得を巡るうわさの中で、トレード候補と目されたタイラー・グラスノー投手(32)が〝非売品〟として残留。その舞台裏で存在感を放ったのが、アンドリュー・フリードマン編成本部長(49)だ。米スポーツ専門局「ESPN」は、この判断を「王朝を支える希有(けう)なフロントワーク」と評価。大谷翔平投手(31)、山本由伸投手(27)ら日本人選手が集うドジャースの「頭脳」が今冬、あらためて脚光を浴びている。

 今オフのドジャースを巡る最大の話題の一つが、グラスノーの去就だった。米メディアでは一時、打線強化や先発再編の一環としてグラスノーをトレード要員に含め、タイガースのスクバルを獲得する可能性も報じられた。

ドジャース残留が決まったタイラー・グラスノー(ロイター)
ドジャース残留が決まったタイラー・グラスノー(ロイター)

 スクバルは2年連続サイ・ヤング賞に輝いた現役屈指のエース左腕。しかもFAまで残り1年という状況から、市場価値はピークに達していた。ドジャースが有望株を含む大型パッケージを組み、タイガース側と世紀のトレードを交渉する――。そんな観測が飛び交う中、トレード要員と目され、渦中の人物となっていた当事者のグラスノー本人も不安を抱えていたという。

 しかし、そのうわさは編成本部長を務めるフリードマン氏の一言で否定された。同氏はグラスノーに直接「君はトレードの対象ではない」と伝え、残留を明言。グラスノーが後日、その一部始終を米メディアに対して打ち明け、安堵の表情とともに「本当に安心した。球団を信頼している」とコメントしている。

 この対応が「ESPN」でも大きく取り上げられた。同局の番組「Sports Center」の中で人気アンカーのゲイリー・ストロエフスキー氏は「一選手に対し、トレードされないと明言することは、フロントとして極めて異例」と指摘。その上でフリードマン氏がMLB関係者の間で「backroom operator」「fixer」などと「寝業師」の意味合いを持つニックネームを付けられていることにも触れつつ、「硬と軟を使い分けられる極めて希少な編成責任者だ」と高く評価した。

 フリードマン氏は元金融マンという異色の経歴を持つ。2004年からデビルレイズ(現レイズ)でフロント入りし、当時は新興で弱小だった球団に独自の経営システムを導入するなど斬新な改革を進め在任期間中、チームを4度のポストシーズン進出に導いた。14年にドジャースの編成本部長に就任。育成システムの刷新、データ分析の高度化、そしてスター獲得とチームバランスの両立で常勝軍団を築き上げた。20年にはMLB年間最優秀エグゼクティブ賞を受賞。近年はオーナーが買収した縁で、NBAのレイカーズのフロントにも助言するなど、その手腕は球界を超えて評価されている。

 もちろん、日本人選手との縁も深い。現在の主力では23年オフにエンゼルスからFAとなった大谷、オリックスからポスティング申請した山本、昨オフにはロッテから同じくポスティング移籍を表明した佐々木朗希投手(24)の加入にも深く関与した。スターを集めるだけでなく、安心してプレーできる環境を整えること――。「まさにそれこそがフリードマン氏が球団方針として貫く、ドジャース王朝の根幹なのだろう」と前出のストロエフスキー氏も番組内で説いている。

 グラスノー残留は、単なる一投手の話ではない。フリードマン氏という「スペシャルブレーン」が健在であることを示す象徴的な出来事だった。その〝優れた頭脳〟が水面下で獲得に尽力した大谷、山本、佐々木の日本人トリオを擁し、世界一連覇を果たした王者ドジャース。裏側では今も静かに、そして確実に勝利への布石が打たれている。