多くのスポーツ選手を悩ませるヒザ前十字靱帯損傷を、組織再生型靱帯で治す治療法が開発され注目されている。この新しい治療法の開発企業に尋ねた。 (野田利樹)
【安全で拒絶反応を引き起こさない】
コアティッシュバイオエンジニアリング(横浜市鶴見区)が開発している医療機器は生体由来の、もともとの腱を使う。牛の腱から脱細胞化技術によって組織再生型の靱帯を作るのである。
同社の城倉洋二社長によれば「一般には動物の腱を人間に移植すると、免疫反応によって拒絶されたり炎症反応を起こしたりします。それを防ぐため脱細胞化技術により免疫源となる細胞成分は取り除き、組織の構造は維持したまま人間に移植できるようにするのです」という。
組織構造を維持したまま滅菌するために、凍結乾燥させてからエチレンオキサイドガスで滅菌する。凍結乾燥する際には腱を特殊な糖の入った液体に浸してから凍結乾燥させるため腱は乾燥しても構造を保ち、生理食塩水に浸すことによって構造を保持したまま復元される。これによって安全に生体と親和し、しかも耐久性も満足することができるそうだ。
組織再生型靱帯の基礎技術を開発したのは早稲田大学理工学術院の岩崎清隆教授。その技術の社会実装を目指して設立されたのが同社である。
【治療機器が自己組織の再生を促す】
現在のところ、脱細胞化した生体組織を利用した医療機器は世界で40品目ほど登場しているが、これらは薄膜など厚みのない組織にまだ限られている。靱帯など強度を求められる領域では同社の人工靱帯が世界初だ。
「植え込んだ人工靱帯を足場として、失われた組織が患者さんの細胞の働きによって再生する生体反応を起こします。言わば、自己組織再生を促す新しい概念の治療機器なのです」(城倉社長)
同社の組織再生型靱帯は、医療機器の薬事申請に必要な安全性、有効性の実証を現在進めているが、すでに安全性や有効性についての動物試験はクリアしている。ヒトの臨床治験も開始され、現在、予定通りに治験が進行中であり、今年中に国内の6大学病院で治験を拡大する計画である。3~4年後以降に医療機器としての保険適用が見込まれている。
ヒザ前十字靱帯の症例数は日本で年間2万件、米国で17万件ほどとされる。世界で年間80万人の患者さんが自身のハムストリングなどの腱を手術で取って移植する再建手術を受けているが、やがて、この組織再生型靱帯による手術に置き換わる可能性がある。誰も自身の健康な組織を取りたいと思わないだろうからだ。
この組織再生型靱帯は、様々な靱帯再建術への応用が可能だ。大谷翔平選手も受けたトミージョン手術でも患者自身の腱が使用されるが、開発品を使えば腱を取ることなく治療が可能となる。
現在、同社では肩腱板断裂の患者さんに対しても同じように治療機器を植え込んで再生させる技術の開発に取り組んでいる。ヒザ前十字靱帯の損傷はスポーツ選手が中心だが、肩腱板断裂は製造業の工場や建設現場、農業や林業などで働く中高年に多い。痛みが伴って肩が上がらなくなるため作業ができなくなるが、重傷の肩腱板断裂の根本的な治療法はないため、患者さんは仕事ができなくなってしまうことも少なくない。患者さん自身の組織に置き換わって組織を再生する治療機器の登場が待たれる。












