伝統か、変革か――。阪神の本拠地・甲子園球場への「テラス席設置」を巡る議論は、当面続いていくことになりそうだ。

 18日に行われた契約更改後の会見で、チーム不動の5番打者・大山悠輔内野手(30)は球団サイドに対し、テラス席の設置を要望したことを公言。日頃は控えめな態度を貫く背番号3が意を決して世に問いかけた言葉は、重みをもって周囲に受けとめられた。

更改交渉で「テラス席設置」を訴えた阪神・大山悠輔
更改交渉で「テラス席設置」を訴えた阪神・大山悠輔

 甲子園と並ぶ12球団屈指の〝ピッチャーズパーク〟とささやかれていたバンテリンドームにも来季からは、ついに「ホームランウイング」が設置される。投高打低のトレンドが年々進むNPBにおいて、虎の本拠地の特異性はますます際立つことになる。

 内野の黒土と外野の天然芝の美しいコントラスト。右翼から左翼へ強烈に吹き付ける浜風などさまざまな特徴で知られる同球場だが、右中間と左中間が極端に膨らんだすり鉢状の形状も他球場にはない「ワンアンドオンリー」の個性だ。

 阪神の前OB会長・川藤幸三氏(76)が初めて、この球場を訪れたのは14歳の時。福井・若狭高でプレーしていた2歳年上の実兄が甲子園出場を決め、応援のため三塁アルプス席最上段に腰を下ろした瞬間、目に飛び込んできた他球場にはない独特の風景には心を一気に奪われたという。

「なんやこの球場! 丸い!」

 真横から眺める甲子園球場の外野は「右中間~左中間」が大きく湾曲しているため、まるで〝半円状〟のように見える。唯一無二の威容に圧倒され、野球への道に進むことを決めた後の浪速の春団治は、60年以上経過した今も同球場の「主(ぬし)」として後輩ナインたちを静かに見守っている。

阪神の前OB会長・川藤幸三氏
阪神の前OB会長・川藤幸三氏

 現時点で甲子園にテラス席を設置する意思は、阪神球団内にはない。球場の特性が変われば、ここ数年間目覚ましい成果を挙げている編成方針も変更を余儀なくされるが、それ以上に「これだけ美しい球場に余計な手を加えたくない」という思いも球団OBを含めて根強い。

 藤川監督も、ゴルフの名門コース「セント・アンドリュース」(スコットランド)になぞらえ、甲子園の〝クセの強さ〟を肯定する立場を表明した。次世代へ何を遺(のこ)し、何を変革していくか。古くて新しい命題はここにもある。