1000分の1加えるだけでアラ不思議! 魔法ですか? いいえ、香料です――。効率的にたんぱく質を摂取できるプロテイン飲料が市場規模を伸ばす中、実は食品香料のチカラが改めて注目されている。流通ウォッチャーの渡辺広明氏(58)とともに“縁の下の力持ち”な企業を取材した。
ブラック缶コーヒーの原材料はコーヒーだけだと思うかもしれない。だが、実際に食品表示を見るとコーヒーに加えて香料と書かれていることが多い。こうした実状を逆手にとってUCCの「BLACK無糖」は香料無添加を前面に打ち出している。
香料は食品の味や香りを良くするフレーバーと、化粧品や洗剤などに匂いをつけるフレグランスの2つに大別される。そして、前者は食品衛生法で「食品の製造又は加工の過程で、香気を付与又は増強するために添加される添加物およびその製剤」として定義されており、いわゆる食品添加物として扱われる。日本では【食品香料=食品添加物】なのだ。
こう言われると、香料にネガティブなイメージを持つかもしれないが、法規制が異なる米国ではNatural(天然)に近いイメージ表示が可能とのこと。コーケンフード&フレーバー(横浜市港北区)の中島愼弥代表取締役社長が解説する。
「食品香料にも種類があり、自然の素材から抽出された天然香料と化学的に合成された合成香料があります。米国では食品ラベルにそれぞれがNatural Flavor(天然香料)かArtificial Flavor(合成香料)と明記されるので消費者が識別することができますが、残念ながら日本ではひとくくりに『香料』と表示されてしまうのです」
例えばアイスクリームに不可欠なバニラ香料(=バニラエッセンス)は、バニラビーンズ(=植物バニラの種子鞘)を水とアルコールを混ぜた溶液に浸し、匂い成分を抽出したもので、イメージとしてはお茶を入れるのに近い。こうした100%天然香料であっても食品添加物として扱われ、複数の香料が使われても一括で「香料」と表示されるだけだ。
「香料で使用される物質は国が安全性を担保しており、危険というわけではありません。味覚は甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つに分類されますが、おいしさの大部分は香りによって決まるんですね。香りのもととなる分子は40万種以上ともいわれ、食品ごとに適した香りのバランスになるようメーカーと相談しながらわれわれは香りを設計しています」(中島社長)
香りによる違いを実感するため、渡辺氏の前にはチョコレートが3種用意された。香料なしのもの、コクや深みをもたらすエンハンサー(食品素材)が入ったもの、ココアエキスが入ったものを食べ比べてみると「全然違う! 香料が入ったチョコの方がリッチな味わいがする。トップ、ミドル、ラストでこんなに変わるものなんですね…。エンハンサーが入るとなんとなくあのイチゴ味のチョコに近づいた」と驚きの声を上げた。
エンハンサーの配合は企業秘密だそうが、イチゴやラズベリーなどフルーツを軸とした香りの集合体がチョコレートを引き立てるのだという。添加する量もチョコに対して1000分の1とわずかだが“存在すべき感”は確かだ。
地球温暖化などの影響で、チョコレートの原料となるカカオが不作となり、価格が高騰している現在、菓子メーカーでは味を損なわぬようカカオ豆そのものの使用量を減らし、カカオエキスなどの香料で代用するコストダウンもあるという。
コーケンフード&フレーバーで伸びているのがプロテイン飲料に関する香料だ。大豆由来のプロテインには特有の青臭さがあるため、大豆の風味を残しつつネガティブな風味をマスキングするのが不可欠。さらにアーモンドミルクや代替肉といった植物由来の食品をおいしく食べるために食品香料の技術が脚光を浴びているのだ。
最後には香りを学習するキット「ワイナロマ」を使って“秘技”を実演してくれた。洋ナシと杏仁豆腐の香りを同時にかぐと白ワインの香り。コーヒーとカシスを同時にかぐと赤ワインになるから香りの世界は摩訶不思議で奥深い…。
「香料は強くすればいいというわけでなく、強いと異臭だったりします。逆におならの臭いもすごく弱くすると果実の香りになったりします(笑い)。香りが加わることで、もともとあった他の香りを引き出すこともできるし、まさに官能の世界です」(中島社長)
数々の商品開発を行ってきた渡辺氏も香りの価値を再認識。「海外で抹茶ニーズが高まっている今、抹茶フレーバーなんかは確実に売れそうですね。ユズや桜を使ったジャパニーズクラフトジンもいいし、世界的評価の高いジャパニーズウイスキーも言ってみれば香りの世界。日本の強みになりそうです」と充実の取材を振り返った。
☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティー。
















