【山口敏太郎オカルト評論家のUMA図鑑#569】日本のUMA情報の中には、時として明治時代などの古い新聞から発掘されるものも珍しくはない。

 人間の手足を持った猫のような獣の出現(明治17年4月26日「郵便報知新聞」)や、四足で水かきのあるネズミのような獣の大量発生(明治12年10月7日「朝野新聞」)、そして頭部が人間の顔のようなタコの怪物「章魚人形」が捕獲(明治18年7月3日「東京絵入新聞」)されたなど、非常にクセの強い怪物の記事がいくつも見られる。

 今回紹介する「天狗犬」も、そんな明治期の新聞に掲載された奇獣の一つである。現在の東京新聞の前身となった都新聞、その明治39年(1909年)12月13日付の紙面の中に天狗犬と称された謎の生物が掲載されているのだ。

 記事によれば、兵庫県神戸市宇治野町のとある家で飼われていた犬が数頭の子犬を産んだところ、そのうちの3頭がまるで「鴉(からす)天狗」を思わせるような鼻をしていたのだという。

「何(いづ)れ香具師の手にかゝる代物なるべし」と記述されていることから、将来的には見せ物として引き取られる可能性も示唆されてはいるが、記事本文はここまでのほんの数行でとどまっているため、その後の子犬たちの消息や行方などについては一切不明となっている。

 当該記事では、3頭の子犬のイラストも掲載されており、それを見た限りでは、確かに天狗を思わせるような長い鼻を持っていることが分かる。見ようによっては人面犬を思わせるような面立ちをしており、時代や紹介のされ方が違っていれば妖怪であると主張された可能性も十分に考えられるだろう。

 怪事件・珍事件ライターの穂積昭雪氏は、明治から大正にかけては人気コンテンツのような形で奇形の動物が数多く紹介されていたということから、天狗犬もこれと同様に奇形の犬が紹介されたものであろうと自著「怪奇動物図鑑」で解説している。

 このころ、「カメ」と呼ばれた西洋犬の導入が開国と共に始まり、明治20年ごろには全国的に普及し、本格的に愛玩動物としての飼育整備がなされていった。その一方で、西洋犬の導入はニホンオオカミの絶滅の一因とも言われる狂犬病やジステンパーなどの流行も発生させる結果となってしまった。

 また、それと同時に交雑によって土着の和犬が激減していったという現状もあったようである。天狗犬が奇形であったとすれば、こうした交雑の結果によってもたらされた結果であったのではないかとも考えられるだろう。

 明治というのは、日本にとって良くも悪くも犬の存在感が絶大なものとなった時代であったとも言える。天狗犬はそのような時代を象徴する奇獣であるのかもしれない。

【参考文献】穂積昭雪「怪奇動物図鑑」