この怪物の名前は「トヨール」と呼ばれており、東南アジアのインドネシア、マレーシア、タイ、シンガポールなどに出没すると言われている。小型のヒトガタの怪物で、家屋に侵入したり、他人の物を盗んだり、数々の悪さをする邪悪な小型生物である。その容姿は異常であり、赤ちゃんのような大きな頭部、小さな手、白濁し、ところどころ緑がかった肌をさらし、全裸で歩いているらしい。

 日本のメディアではほとんど紹介されておらず、現地の資料をもとに、今回かなり詳しい情報まで紹介しよう。

 日本や欧米と違って、まだまだ東南アジアでは、民話や伝説上の生き物である幻獣と、もし捕獲された場合には生物図鑑に収録される未確認生物が分化されていない。この「トヨール」はどちらかというと、幻獣に分類される存在である。だが、現在でも東南アジア各国の雑誌に出没事件が掲載され、実際に見たと公言する人物も多い。

 なお、呼称は各国で違うようで、タイではオスを「コマン・トング」、メスを「コマン・レイ」と呼ぶ。フィリピンでは「ティヤナック」。カンボジアでは「コーエンクロー」と呼ばれている。

 このトヨールはどうやって生まれたのであろうか。諸説あるのだが、インドネシアシャーマンやマレー魔女たちが、胎児や流産した赤子を使って黒魔術をやることで生まれたという伝承が有名である。

 黒魔術の悪影響で、赤ちゃんが怪物化するという設定は、米国の有名UMA「ジャージーデビル」の伝承と似ており、大変興味深い。


 一説によると、死んだ赤ちゃんを特別なミイラ化技術により加工、「トヨール像」に仕上げる。このトヨール像こそが魔物・トヨールを生み出す道具であるという。あくまで都市伝説だが、にわかに信じがたい情報である。

 しかしながら、黒魔術師によってこのトヨールが使役されていると、今でも多くの人々が信じており、黒魔術師の間で赤ちゃんミイラが材料のトヨール像が売買されることもまれにあるという。

 トヨールを飼うには、いくつかの条件が必要らしい。まず、コップ1杯の牛乳を毎朝、トヨール像に与え(異説ではトヨール像所持者の身内女性が出した母乳を与えるとよいとも言われている)、いくつかのおもちゃは当然のこと、衣類やビスケットを中心としたお菓子を欠かしてはいけない。また、黒いキャンドルをかかげ、お香と呪文を唱え、自らの血を振りかけるとよいとされている。

 トヨール像により、トヨールを使役することが可能になった人は、他人の家から物品を盗んだり、いたずらを仕掛ける。どんなに施錠していてもトヨールは侵入するのだが、屋根の上に登り、そこから侵入する。当然、金品が集まってくるので、トヨールを使役する人々は金持ちになる。

 逆にマレーシアの家庭で、お金や宝石が自宅からこつぜんと消えた場合は、周囲にトヨール使いがいるのではないかと疑うことがあるようだ。さらに、トヨールは窃盗だけではなく、殺人を実行することも可能であり、トヨール使いの中には、憎らしい相手を殺害する場合もある。どちらにしろ、東南アジアの窃盗現場では、子供のような手足の痕跡や指紋が検出されることがあるという。

 この魔物・トヨールの害を防ぐためには、トヨールが苦手としている針をお金の下に置くとよいとされている。針により傷つくことを恐れるトヨールはそのお金には手を出さないという。また、鏡の下にお金を置くと、これもまた怖くて手が出せないと言われている。


 このトヨールとの契約が切れた場合、どういうことが起こるかは不明だが、墓地の骨つぼの中に入れてしまったり、海に遺棄したりする場合が多い。2006年2月には、トヨール像らしきミイラの瓶詰めがマレーシアの海辺で発見されている。発見者の漁師の手によって、マレーシアの州立博物館に寄贈され、展示されていたが、関係者に不幸が続いたため、呪術師に預けられ、再び海に遺棄された。

 また、結婚式の初夜、花嫁や花婿のどちらかの一族がトヨールを使役していた場合、夜明け前にトヨールが新婚カップルを訪問し、花嫁のつま先から血を吸うと言われている。これにより、トヨールはスピードとパワーがアップするのだ。