災いを転じて福となす――。女子テニスの加藤未唯(29=ザイマックス)は、2023年6月の4大大会「全仏オープン」で天国と地獄を味わった。女子ダブルス3回戦では失格騒動に巻き込まれたが、混合ダブルスで初優勝。2人のパートナーの存在が、絶望の淵に立たされたプレーヤーの心に火をともした。今回の単独インタビューでは激動の1年間を振り返るとともに、24年シーズンに向けて女子ダブルスでのグランドスラム制覇とパリ五輪出場を目標に掲げた。

インタビューに応じる加藤未唯
インタビューに応じる加藤未唯

 ――2023年はどんなシーズンだったか

 加藤 ツアーで2勝できたり、キャリアハイを更新できたり、子供のころから夢だったグランドスラム(4大大会)のタイトルを取れたので、充実した1年でした。

 ――印象的だった大会やシーンは

 加藤 1月の最初の大会(ASBクラシック)で優勝できて、シーズンに弾みがついて、いい流れで来ていた時に全仏オープンの女子ダブルスで失格になってしまった。気持ち的にも落ちている中だったけど、混合ダブルスでは決勝まで行けて、優勝した時はホッとした。女子ダブルスで失格になったので、大会側やファンの方に受け入れられているとはあまり思えていなかった。だけど、たくさんの方が応援してくれたことがうれしくて、最後まで混合ダブルスをやり抜けたことへの安心感は、今でも覚えています。

 ――女子ダブルスで失格時の心境は

 加藤 まず、ボールガールの子に申し訳ない気持ちがありました。そして、試合にはパートナー(アルディラ・スーチャディ=インドネシア)のご家族とかも見に来ていたし、チームのみなさんにもすごく申し訳ない気持ちだった。大会の関係者たちは励ましてくれたので感謝しているが、逆に捉えられていると思っていた。「あり得ないよ」「同じテニスをしている人として、それはないよ」みたいなことを言われると思っていた。人に会うのが怖くて、ちょっと閉じこもっているような感じだったし、失格当日は本当にエネルギーがなかったです。

 ――どうやって気持ちを切り替えた

 加藤 スーチャディは私が女子ダブルスを組んできた中で、あんなにいい人はいないだろうというくらいすてきな人。失格になった時も私に寄り添ってくれて「そんなに謝らなくていいよ」と励ましてくれた。翌日には混合ダブルスのパートナー(ティム・プッツ=ドイツ)に会った時に声をかけてもらったことで、気持ちを切り替えられました。ボールガールの子ともその後、直接話して謝罪をして、お互い笑顔で会話できたのでよかったです。

 ――プッツからはどんな言葉をかけられた 

 加藤 初めて組むパートナーだったけど、私のことを考えてくれて「やめたかったら、やめてもいいよ」とか「もしやるんだったら、僕は力を貸すよ」とか優しい言葉をかけてもらった。すでに1、2回戦を終えていたので、どんな人かは少し理解できていたけど、こんなにも親身になってくれるのがありがたくて、彼のためにも頑張りたい、勝っても負けても全力を尽くそうと思えました。

 ――どん底からの混合ダブルス制覇は漫画のような展開だ

 加藤 テニスで失格になることは、ほぼないですからね…。勝った瞬間はすごいうれしいというよりも、ようやく解放されたという気持ちの方が大きかった。女子ダブルスでは最後まで(試合が)できなかったので、最後までできたという思いと、暗いところにいた感じだったので、ようやく明るい気分になれた感じがしました。

視線は2024年に向いている
視線は2024年に向いている

 ――24年シーズンはパリ五輪を控える

 加藤 東京五輪に出場できなくて、すごく悔しい思いがあったので、次のパリでは出たいと強く思っている。出たことのない大会だし、テニスは日本を背負える大会が本当に少ないので、やっぱり経験したい。世界的に見ると、五輪に出ない選手は多いが、日本の文化的には五輪が一番大きい大会だと思うので、日本人として出たいです。会場も全仏オープンと同じローラン・ギャロスだし、自分の好きな会場でもあるので。

 ――最後に24年シーズンの目標を

 加藤 24年もキャリアハイを更新したいし、パリ五輪は目標にしている大会。ここからの半年間の大会の成績で決まるので、気を引き締めて、ケガのないようにやりたい。もちろん女子ダブルスでもグランドスラムで優勝したい。混合ダブルスで勝ったことで、女子ダブルスでもチャンスがあると思えたので、より目標が明確になりました。

 

【全仏騒動の経緯】全仏オープンの女子ダブルス3回戦でスーチャディとペアを組む加藤は、マリエ・ブズコバ(チェコ)、サラ・ソリベストルモ(スペイン)組と対戦。第5ゲーム途中に加藤が相手コートに球を返すと、ボールガールの頭部付近に直撃した。ボールガールが泣き出し、試合が中断。加藤がすぐさま謝罪したため、一度は警告とされるも、相手ペアの猛抗議によって失格となった。加藤は失格後に号泣した一方で、相手ペアの笑うようなしぐさに対して世界中から批判が相次いだ。

 

 ☆かとう・みゆ 1994年11月21日生まれ。京都府出身。7歳でテニスを始め、各年代の全国大会で活躍。2013年にプロ転向し、16年カトビツェオープンの女子ダブルスでWTAツアータイトルを獲得。17年全豪オープンでは、穂積絵莉とのペアで4強入り。18年東レ・パンパシフィック・オープンでは二宮真琴とのペアで優勝を果たした。22年は四大大会全てに出場。23年全仏オープンは女子ダブルスの3回戦で失格騒動に巻き込まれるも、混合ダブルスで初優勝した。156センチ。