見返す――。それが恩返しだ。ソフトバンクを戦力外となり中日に移籍した上林誠知外野手(28)は来季、新天地で再起をかける。「常勝」全盛期のホークスで高卒入団4年目にレギュラーを確保し、天才と呼ばれた左の巧打者。非凡な才能にほれ込んだ一人が、王貞治球団会長(83)だった。相次ぐケガに悩まされた上林を温かく励まし続けた世界の王。志半ばで鷹を去る28歳に、王会長は奮起を促す力強いエールを送っていた。

 12月の寒風吹きすさぶ福岡・田川市の野球場で、日焼けした上林の笑顔が弾けていた。平日の午前中、一様に厚手のコートに身を包んだ見学者は300人超。「今日は少ない方です。多い時は500人を超えるくらい。本当にありがたいです。言うても、僕、戦力外ですからね。なのに、これだけの人が来てくださる。毎日、力をもらっています」。有志が練習パートナーを日替わりで務め、選手は上林ただ一人。福岡市内から車で1時間以上の地に、県外ナンバーの車がずらりと駐車されている光景に本人も驚かされたという。

 衝撃的な戦力外通告の後、獲得に向けた打診が複数あった。「こんなに早く連絡が来るもんなのかと思った。即断というわけじゃなかった。やっぱり慣れているという点では、パ・リーグという考えもありました。でも一番は、最初に声をかけてもらったというのが(中日入団の)理由です」

 2022年5月に右アキレス腱を断裂。医学的にもパフォーマンスの完全回復には2年を要するとみられていた。今季終盤に一軍の舞台で取り戻しつつあった感覚を来季の逆襲につなげる矢先の構想外。ショックが計り知れなかっただけに、他球団から差し伸べられた手に安堵感も大きかった。

 新天地が決まり、かけがえのないファンの声援に再起への思いは強まるばかりだが、特別な人から送られた優しさあふれるエールも背中を押している。次世代の主軸候補として上林に大きな期待を寄せ続けていた王会長だ。「クビになって、自分から連絡しました。それは、もちろん。特に自分の場合はしなくちゃいけない方ですから」。相次ぐ故障や不振に苦しむたびにメールで励ましを受け続けてきた。今回も王会長の気遣いが身にしみた。「こうなってしまったことは、もう仕方がないことだから。これから、見返すんだ!」。見返すという言葉に込められた真意を理解している。電話のやり取りは決して短くはなかったが、会話の多くは共通の知人についての話題だった。そこが王会長の優しさだと、上林は分かっている。

 かつて2年連続で2ケタ補殺を記録した稀有な強肩の持ち主で、18年に22本塁打をマークした長打力はまだまだ健在だ。今季終盤の局面では代走起用されるなど脚力に問題はない。名古屋を本拠地とする中日は移動負担が少なく、地理的メリットが上林の完全復活を後押しするはずだ。退路を断つため、これまでもあえて自分にプレッシャーをかけてきた。「広いバンテリンドームで30発、いきましょう」。らしさは失っていない。それは自信の裏返しでもある。再起を約束する言葉は力強かった。