牛串1本3000円は高いのか安いのか――。そんな身近な疑問を起点にして流通ウォッチャーの渡辺広明氏が2023年の経済を一気に振り返ります。値上げラッシュでも高級品が売れているのはインバウンドだけが理由じゃなかった。プライベートブランドばかりが売れることのデメリットとは…。目からウロコの連続です!

「4000円ですよ」と渡辺広明氏
「4000円ですよ」と渡辺広明氏

 11月19日、日曜日。朝8時を回った東京・築地場外市場は多くの観光客でごった返していた。人混みをかきわけ、渡辺氏がさっそうと目指した先は外食大手のワタミが同日グランドオープンさせた新業態「築地 牛武」。

 和牛串のテイクアウト専門店で、鹿児島産の黒毛和牛「薩摩牛」の中でも全体の4%しかとれない“4%の奇跡”と呼ばれる最高級肉を使うのが特徴。メインのサーロイン串はなんと1本3000円で他のメニューも肉寿司2貫1000円、ランプ(赤身)串2000円、牛武玉子バーガー(ドリンクセット)2000円(※)とかなり強気の価格設定だ。

 にもかかわらず、店頭には和牛串を求める客が列をなす盛況で、「まずは食べてみるしかない!」と渡辺氏もそれに続く。注文を受けてから焼かれたサーロインにプラス1000円するとウニトッピングもできる。計4000円の“至高の串”を頬張りながら渡辺氏が冗舌に語り始めた。

「朝からぜいたくだと思うかもしれないけど、ココにいる外国人は全然そんなことを感じていない様子だね。その理由は簡単で、世界的な物価高と円安という2つの恩恵を受けているから。ラーメン1杯が3000円以上する暮らしに慣れた外国人にとって、この牛串はリーズナブル。脂のある和牛にウニが合うのかはちょっとよくわからないけど、せっかく築地に来たんだから海産物も食べたいというニーズをうまく取り込んでいると思います!」

築地場外市場にオープンしたワタミ新業態「牛武」
築地場外市場にオープンしたワタミ新業態「牛武」

 インバウンドは回復基調で、日本政府観光局は10月訪日客数がコロナ前の水準に戻ったことを発表。特筆すべきは韓国やシンガポール、インドからの観光客がコロナ前よりも増えた一方、中国人客はコロナ前の4割弱にとどまっている点だ。「中国依存のインバウンドから脱却したとも言えるし、それが今後、うまく回帰すればさらにインバウンドを押し上げてくれるでしょう」

 値上げラッシュが続いた2023年も終わりが近づき、国内では“値上げ疲れ”が鮮明になってきたといわれるが、笑顔で牛串を食べている日本人も多いのはどういうことなのか?

「やっぱり僕が思った通り、個人の中でも消費の二極化が進んでいるようですね。お金持ちと貧乏という格差の話ではなく、お金を使う場面と節約する場面がはっきり分かれるという意味です。つい先日、日経がイオンやセブン&アイの食品PB(プライベートブランド)比率が過去最高の約17%に高まったことを報じました。このPBシフトが示すのは、日常の食費は少しでも削りたいという値上げに疲れた消費者の本心。でも旅行やレジャーでは、非日常を楽しみたいからお金を惜しまない。推し活なんかもこれに該当します」

 賃上げがなかなか進まない中、メリハリをつけた消費は賢い選択にも思えるが、渡辺氏は過度なPBシフトに危機感を募らせる。

「PBはNB(ナショナルブランド、いわゆるメーカー品)よりも安くて小売りにとっては利益率が高い。でもその分、広告宣伝費や流通コストが抑えられていて世の中全体に回るお金が少ないわけです。何より少子化が進む日本社会で重要なのは世界で勝負できる高付加価値商品を開発して発売していることじゃないでしょうか? 同じPBを出すだけなら人口というスケールメリットを誇る中国に太刀打ちすることができませんよ」

 こう言って渡辺氏がカバンから取り出したのは「伊右衛門 特茶TOKUCHA」(サントリー)と「ヘルシア緑茶α」(花王)。どちらも付加価値を持った特定保健用食品だ。

「特茶は体脂肪を減らすのを、ヘルシアは内臓脂肪を減らすのを助けてくれるらしいので毎日欠かさず飲んでいます。もちろん普通のお茶よりはちょっと高いけど僕にとってはこれがプチぜいたく(笑い)。お酒が好きな人ならいつもよりいいビールを飲むのに近いと思います」

渡辺氏が愛飲する特手保健用食品
渡辺氏が愛飲する特手保健用食品

 GDPの半分は個人消費が占めており、世帯消費の30%は食料品への支出といわれる。持続的な成長に向けて賃上げも欠かせないが、ちょっとおいしい食べ物を食べることも経済を後押しするのだ。食べて、値上げに負けない“体力”を取り戻せれば――。

 ※ハンバーガー商品には薩摩牛「4%の奇跡」は使用していない。