ゼリー飲料の世界が拡張を続けている。コロナ禍で外出自粛やスポーツシーンの需要減で一度はややへこんだものの、逆に健康管理や体調維持を意識した需要を取り込みV字回復。他業種からの参入も続く中、トップランナーの「inゼリー」はなぜこんなにも強いのか。流通ウォッチャーの渡辺広明氏と取材した。
将棋界のタイトルをすべて手に入れた藤井聡太8冠が話題だが、“平成の大名人”こと羽生善治九段を起用したテレビCMが放映されたことをご存じだろうか?
勉強に集中できない女子高生(秋田汐梨)が「inゼリー エネルギーブドウ糖」を飲むことで異世界に入り込み目の前に羽生九段が現れるというストーリー。ゼリー飲料市場は2022年、900億円の大台を突破して過去最高を記録した。そのトップをひた走るのは森永製菓が1994年から販売を続ける「inゼリー」ブランドだが、「近年、市場に変化が起きている」と渡辺広明氏は指摘する。
「長らく『inゼリー』の1強でしたが、製薬メーカーや食品メーカーの新規参入が続いていること、そして安価なプライベートブランド(PB)品も増えています」
特に目立つのが新たにゼリー飲料ブランドを作るのではなく、既存ブランド力を転用したケースだ。滋養強壮のイメージが強い「リポビタンD」を擁する大正製薬は「リポビタンゼリー」を、疲労回復のイメージとつながるアリナミン製薬は「アリナミンメディカルバランス」、興和は「キューピーコーワαチャージ」を投入し、じりじりとシェアを伸ばしている。
追われる立場の「inゼリー」だが、森永製菓マーケティング本部健康マーケティング部ゼリーカテゴリー担当ブランドマネジャーの椎原悠太氏は「効能効果をうたえるのは製薬メーカーさんの強みだなと思っています。それでもまだ『inゼリー』に伸びしろは残っていると思います」と自信の姿勢を崩さない。
「コロナ禍の外出自粛で通勤前に飲まれている方やスポーツシーンが減ったことで20年は市場全体が落ち込み、苦しい部分がありました。それでもコロナ前の19年に発売した『inゼリー エネルギーブドウ糖』が在宅ワークや受験勉強する人にマッチした。当初はコンビニ限定でしたが、20年秋に全チャネル販売に拡大し、今なお“考えるためのエネルギー”として伸長しています。新商品を作るということもありますが、いかに既存商品が活用できるシーンやニーズを見いだして訴求するかが大切だと思っています。今後はシニア、お子さんにもアプローチしていきたい」
約15種類のラインアップをそろえる「inゼリー」シリーズの中で最も売れているのは「エネルギー」で、ほかにも「マルチビタミン」「マルチミネラル」「エネルギーブドウ糖」「プロテイン5g」などが売り上げの高い商品だ。
「実はミネラルやたんぱく質などの栄養成分を入れると、量によってはおいしさとの両立が非常に難しくなります。弊社ではこれまで蓄積してきたゲル化技術によって、おいしさと栄養素の補給を両立させています。プロテインが注目されているにもかかわらず、プロテイン入りのゼリーが(市場に)非常に少ないこともおいしく作ることが難しいということが一因だと思っています」(椎原氏)
女性を主要なターゲットとして開発された「フルーツ食感<もも・メロン>」もゲル化技術を活用することで本物のフルーツを食べているような食感を再現。マルチビタミンと食物繊維が配合され、罪悪感のないおやつという位置付けだ。
「inゼリー」は来年発売30年を迎えるロングセラー。渡辺氏はその先見の明を高く評価する。
「今でこそ健康や糖質オフは当たり前ですが、90年代にお菓子メーカーが先陣を切ってチャレンジしたことがすごいんです。だって『チョコボール』や『ミルクキャラメル』といった砂糖が入ったお菓子を作っていながら、健康や美容にも投資して研究してきたから、他社にはマネできない独自技術を持っているのです。ワンハンドで素早く飲める利便性も時代を先取りしていたといえるでしょうね」
もはや「inゼリー」は森永製菓にとって欠かせない根幹事業。がっちりと固まっている!
















