巡業の舞台裏とは? 大相撲の秋巡業が連日、各地で行われている。力士の取組だけでなく、公開稽古や初っ切り、相撲甚句など本場所にはない見どころや、ファンとの交流機会が多いことも大きな魅力だ。全国各地の巡業地へ先乗りし、開催の段取りを整えることも親方衆の重要な仕事の一つ。元大関琴奨菊の秀ノ山親方(39=本紙評論家)が、その知られざる裏側を解説する。

【秀ノ山親方・がぶりトーク】読者のみなさん、こんにちは! 今回のテーマは「巡業」です。今年の秋巡業は全国22か所。基本的に巡業地1か所につき親方1人が担当となり、開催日の1週間前から先乗りして準備にあたる。これが「先発」と呼ばれる仕事で、秋巡業では私も徳島市(23日)を担当しています。もちろん、早くから現地入りするのは理由があります。

 大事な仕事の一つが、宿舎の下見と部屋割りです。開催日の前日には親方や力士ら総勢200人近くが乗り込んでくる。例えば、通常の4人部屋だと力士4人には狭すぎることもあるんですよ。その場合は1部屋2人に変更するなどして調整します。当日の会場入りで使う移動手段も確認する。24人乗りの小型バスなら、力士は半分しか乗れない(笑い)。必要に応じて増便を手配します。

 宿舎で提供される夕食のメニューも試食する。特に気を使うのが、量と栄養バランスです。膳ならもう少しボリュームを出してほしいとか、バイキングならメインの肉料理だけは絶対に切らさないでくださいとか、気になった点をリクエストする。巡業先によっては宿舎が4か所ぐらいに分かれることもあって、それぞれの宿舎で試食するので大変です(笑い)。

 それから開催当日の昼食のメニューも考える。温かいものを食べてもらいたいから、会場で親子丼や牛丼などを用意できないかとか。現役時代の経験から、巡業先の食事って、関取衆の間でもよく話題になるんですよ。「あの巡業の、あれがおいしかったね」とか。自分が携わるからには、力士の思い出に残るような巡業にしたい。手を抜くわけにはいきません。

 巡業会場の準備も、重要な仕事。特に入念にチェックするのは会場内の動線です。本場所と比べて、ファンと力士の距離が近いのが巡業の魅力。お客さんとの程よい距離を保ちつつ、力士たちが準備運動をするためのスペースなども確保しなければなりません。開催日が近づいてくると、今度は行司や呼び出しも先発で乗り込んでくる。

 行司は会場内の張り紙や入口に設置する板番付などを書き上げ、呼び出しは土俵を1日でつくり上げます。それから、会場づくりで欠かせないのが現地のボランティアさんたちです。多いところで50人以上もの方たちが、設営などを手伝ってくれる。現役時代は、会場に行けば、そこに土俵があるのが当たり前だと思っていた。巡業は地域のみなさんの協力で成り立っているんですね。

 開催当日も、気は抜けません。力士やお客さんに何かアクシデントがあれば、救護班の方たちと連携しながら対応にあたります。興行を無事に終えることができれば、先発親方もお役御免になります。お客さんが喜んでくれたら、勧進元(主催者)さんも喜んでくれる。巡業を成功させるために陰からサポートする仕事には、すごくやりがいを感じます。

 ぜひファンのみなさんには巡業に足を運んでいただき、本場所と違う雰囲気を満喫してもらいたいですね。それではまた!

(元大関琴奨菊)