前人未踏の八冠制覇が現実のものとなった。第71期王座戦(日本経済新聞社主催)第4局が11日、京都市の「ウェスティン都ホテル京都」で開催され、藤井聡太七冠(21)が永瀬拓矢王座(31)を破り、シリーズ3勝1敗でタイトルを奪取した。

 永瀬王座の先手番で、序盤は「角換わり」の戦型に。「角換わり」は相手の角を互いに持ち駒にした上で進行するため、自陣に持ち駒の角を打たれないような駒組が求められ、必然的に変化のバリエーションに制限が生まれ、定跡通りに進むことが多いとされる。

 しかし、ここで勝負師・永瀬王座の戦術が光る。自身が研究済みで対局者が未知の局面、いわゆる〝永瀬ワールド〟に藤井七冠を誘い込んだ。

永瀬拓矢王座(ⒸAbenaTV,Inc.)
永瀬拓矢王座(ⒸAbenaTV,Inc.)

 序盤から長考する藤井七冠に対して、永瀬王座はほとんど時間を使うことなく指し続ける。特に藤井七冠が72分の長考の末に放った30手目「8六歩」に対して、永瀬王座がわずか3秒で「同銀」と応じたのは圧巻だった。まるで「その手は研究済みです」という声が聞こえてくるかのような迫力。42手目の段階で、藤井七冠が3時間30分を消費したのに対し、永瀬王座はわずか30分弱。局面ははっきりと永瀬王座有利となった。

 中盤戦はお互い居玉(=初期配置に玉がいつづけること)のままの空中戦へ。居玉は、玉の守りが極端に薄く、有利な盤面であってもカウンター一発で形勢が大きく変わりかねない。藤井七冠は読みの精度、永瀬王座は研究の深さを盾に、それぞれが〝薄氷の上での殴り合い〟を選んだのだ。

 42手目以降から徐々に藤井七冠が形勢を挽回。序盤で残した持ち時間というアドバンテージを生かしながら読みを深める永瀬王座を、藤井七冠が短時間の思考で上回り、ついにAI評価値も互角の振り出しまで戻った。

 この状況で藤井七冠の持ち時間はなくなり1分将棋に。永瀬王座は約30分の持ち時間を残す完璧なタイムマネジメントで終盤を迎えた…かのように見えた。

 お互いに正解以外の手を指すと形勢が一気に逆転するような隘路(あいろ)で、双方が1分将棋となり、AI評価値も大きく揺れ動く大乱戦。わずかに藤井七冠が読みの深さで上回り、永瀬王座の玉を追い詰めると、138手目、永瀬王座は深くため息をつき、投了した。

 藤井七冠は2016年にプロデビューしてからわずか7年、羽生善治九段(当時25歳4か月)の7大タイトル全制覇(96年)以来、実に27年ぶり、史上最年少の全冠制覇を果たした。タイトル戦無敗での偉業達成。今後は「誰が藤井八冠を倒すのか」、プロ棋士たちの前に大きな壁が立ちはだかった。