AIの基礎知識から最新技術を分かりやすく解説しつつ、「AIってこんなこともできるんだ!」と胸もときめかせてくれた当コーナーもラスト。本紙と読者の皆さんに寄り添った「AI研究家」大西可奈子氏が、最後まで私たちをワクワクさせてくれます。
【東スポでAI連載という奇跡】本連載も今回で最終回を迎えます。昨年、「東スポでAIについて連載をしていただけませんか?」とお声をかけていただいた時は本当にびっくりしました。AIとはどう考えても結び付かない新聞で、いったいどんな内容にすれば読者の皆さんに喜んでいただけるのか、声をかけていただいた当初は困惑しました。
そんな私の連載の方向性を決めたのは、東スポの担当さんの「なんか面白いAIありませんかね?」でした。これまでに私が書いてきたAIの記事はビジネスに関わるものであったり、技術的な内容であったり、AIに関わっていない一般の方からすれば遠いと感じる内容ばかりでした。しかし、AIは何も小難しいものばかりではありません。面白いAIや、なぜそんなAIを開発したのかと思うようなおかしなものもあります。東スポは気軽に読みたい新聞ですが、実はAIに関する記事もそれと同じくらい気楽に読むべきものなのです。本連載はこれで終わりますが、今後もAIの楽しい記事が増えていくことを願っています。
【AIへのイメージは変わりましたか?】
「皆さんの身の回りにあるもので、AIだと思うものはどれですか?」。本連載の第1回で、私はこのような質問を投げかけました。この質問は簡単そうに見えて、実は答えるのは非常に難しい質問です。しかし、ここまで本連載を読んでくださった皆さんなら答えられるはずです。AIは大量のデータを学習し、そこからAI自身の振る舞いを導き出し、未知の(学習していない)ものに対しても適切な対応が取れるものです。皆さんの身の回りにはきっとAIっぽい顔をしながらAIではないものや、真にAIと言っても差し支えないものまで様々存在していることでしょう。
皆さんはかつて、AI=ロボットあるいはAIは工場にあるもの、そんなイメージを持っていたのではないでしょうか。本連載を読んで、そのイメージはどのように変わったでしょう。AIは必ずしもロボットではありませんし、工場だけに存在しているものでもありません。第9回で取り上げたAI婚活のように、非常に身近にあり、そしてとてもワクワクするものなのです。
「人工知能」という言葉からAIは人間に代わるものであり、人の知能を模して造られていると思われがちですが、少なくとも現代のAIは人に取って代わる存在ではありません。大量のデータから独創的で斬新な料理のレシピを提案してくれるAIや、人間から与えられたお題に対して面白い答えを自動で生成する大喜利AIのような人を楽しませてくれるAIも多く存在しています。本連載を通して皆さんが抱いていたAIのイメージがなんとなくお堅いものから、もっとワクワクして楽しいものだという印象に変わったのならば大変うれしく思います。
【AIがもたらす明るい未来】
今後、AIは私たちにどんな未来を見せてくれるでしょうか。私はAIの中でも自然言語処理と呼ばれる分野の、特に対話AIを専門としています。第1回で私は、対話の中でも特に「雑談」は非常に複雑な思考や仮定の結果成り立っているものであるため、現在のAI技術では人間のような雑談を可能にすることは困難だと書きました。
しかしこの分野は、第7回でご紹介した、非常に巨大な、これ一つで様々な課題を解決可能なAIであるGPT―3や、第10回でご紹介した、様々な言語を非常に自然な文章に自動で翻訳してくれるDeepLなどを筆頭に、近年目覚ましい発展を遂げています。第1回で述べたAIの限界を、本連載の最終回で撤回できることをうれしく思います。
AIがもたらす未来は無限大です。皆さんは将来、どんなAIが欲しいですか? 自分の代わりにAIに仕事をしてもらう、自分の分身となるAIを作って永遠に生きる、AIと結婚する…今はまだあり得ないと感じるかもしれませんが、きっとAIの力はこんなものではないはずです。
今後どんなAIが作られるのか、自分には関係ないと思わないでください。AIはデータを学習することで生み出されます。つまり、普段皆さんが何げなくウェブに書いた文章やアップロードした画像が、実は想像もできないAIの誕生に関わっていくかもしれないのです。
私たちが生み出したデータのその先にいったいどんなすごいAIが生まれるのか、それはまだ誰にもわかりません。ただひとつ言えることは、使い方さえ間違えなければAIはいつだって私たちを楽しませ、ワクワクさせてくれるものだということです。本連載が、「AIって何?」という皆さんの疑問解決の一助となれば幸いです。
☆おおにし・かなこ 愛媛県出身。2012年お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。博士(理学)。同年、NTTドコモ入社。16年から2年間、情報通信研究機構に出向。一貫して雑談対話システムの研究開発に従事。20年から大手IT企業でAIの導入や設計をリード。AIに関する講演や執筆、監修等も行う。著書に「いちばんやさしいAI<人工知能>超入門」「超実践!AI人材になる本」。