人材獲得競争が世界的に加速する中、従業員の働く満足度を上げる福利厚生が注目されている。かつては社宅や社員食堂など自前主義が主流だったが、テーマパークやフィットネスクラブ、育児支援などメニュー豊富な代行サービスの登場により外注がトレンドになりつつある。しかし〝逆張り〟で大成功を収めている企業もあるから世の中やっぱり面白い。
社員が〝初めての体験〟をしたら最大5000円を支給します。こんなユニークな体験補助制度を導入しているのが株式会社mediba(東京都港区)だ。
エンプロイーエンゲージメント部兼人事部の下向宣子氏が振り返る。
「弊社は2014年からホテルへの宿泊やスポーツクラブが利用できる福利厚生代行サービスを導入していました。ただ利用者がなかなか増えないこと、いつも同じ人しかサービスを利用しないという2つの課題がありました」
福利厚生代行サービスは利用するしないにかかわらず社員人数分の月会費を請求するものがほとんど。その多くが月額1000円前後で、自社で行うよりも低コストで福利厚生を整備できるとサービスを宣伝するが、対象の従業員が250人を超えるmedibaでは月額23万円、年間270万円になっていた。
「広くあまねく使われていないのにこの金額を支出し続けるのはどうなんだとメスが入り、メディーバらしい福利厚生を考えてくれと命じられました。どうしようか悩みましたが、弊社が掲げるCREDO(クレド)、スローガンみたいなものの中にものづくりを大切にしようというのがあって、クリエイティブにいかせる福利厚生は何かとアイデアを出し続けました」(下向氏)
そんなある日、下向氏は「新しい体験をすることが脳を活性化させる」といった趣旨の記事を読みひらめいた。
同僚の植竹愛氏が続ける。
「ものづくり補助みたいな案もありました。でも、ものづくりの定義が難しかったらまた使われない福利厚生になってしまう。だとしたら『はじめての体験補助』は利用者の幅を狭めないようハードルを低くしたいねって話してて、申請方法も事後にするなど工夫を凝らしました。上層部には『お金のばらまきなんじゃないか?』という人もいましたが…(苦笑い)」
実際に「はじめての体験補助」のルールを見ると縛りの少なさに驚かされる。①過去に行ったことがなく、はじめての体験をすることで気づきや学び、発見があること。②体験で得た気づきを共有すること。モノを買うような体験ではなく、コト体験であることの2点だけ。半期ごとに1回5000円が支給される仕組みなので、たとえ全員が利用しても20万円のコストカットに成功している計算となる。
トライアルで始まった同制度は当初、社員の利用率が30%以下なら半期で廃止の可能性もあった。だが「感じたことをお書きください」というゆるいレポートが社内のSlackで共有されることで社員間の〝気づきの創発〟を生んだ。
「みんなの初体験を読むのが意外と楽しいって広まったおかげで、上層部もすっかりファンになってしまって、そのうち『初めて鬼滅の刃を映画館で見てきましたくらいでもいいんじゃない?』と笑っていました」(植竹氏)
成功の秘訣はハードルの低さにこだわったところだ。「はじめてグランピングをしました」、「自宅玄関を指紋認証にしました」、「水光注射を打ちました」というのも実際に社員から申請があって認められたケースだ。ちなみに制度を運営する2人は実際にどんな初体験をしたのか聞いてみると…。
「私は今年、長岡の花火大会を初めて有料の席で見るという体験をしてきました。日本三大花火といわれるだけあって本当に美しくて泣きそうになりました」(下向氏)
「エンタメにも使えるよって意味で、あるボーイズグループのファンクラブ費用に充てました。実際に入会してみたら限定コンテンツはあるし、チケット先行販売も当たるし、いいことたくさんあるんだなって。今年も(自己負担で)継続しちゃいました!」(植竹氏)
満面の笑みで、初めての体験がいかに新鮮であったかをたっぷり語ってくれるところにこの制度の強みがあるのだろう。導入2年目の今期はエンゲージメントを高めるべく制度をブラッシュアップしつつ対象社員の60%が利用することを目指している。
使われない福利厚生よりも気軽に使えて社内コミュニケーションまで生まれるという好循環。福利厚生の自前主義にも確かなメリットがありそうだ。
なお、株式会社medibaは、現在よりもさらに社員の多様な働き方に適応したハイブリッドワークを目指し、今年11月中旬より、東京都品川区のoak meguroへ本社オフィスを移転することを発表している。













