藤井聡太七冠(21)が前人未踏の八冠獲得か、永瀬拓矢王座(30)が永世王座獲得か――。31日に神奈川県秦野市の老舗旅館「元湯 陣屋」で行われた第71期王座戦(日本経済新聞社主催)5番勝負第1局は永瀬王座の勝利で終わった。

感想戦で悔しがる藤井七冠(右)と永瀬拓矢王座
感想戦で悔しがる藤井七冠(右)と永瀬拓矢王座

 藤井七冠の先手番勝率は今季の公式戦で脅威の100%(対局前時点)、さらに2人のこれまでの戦績は藤井七冠11勝、永瀬王座5勝。大方の予想は振り駒で先手番を得た藤井七冠の先勝だっただろう。

 序盤はある程度定石化された戦型で始まり、50手目まではほぼ互角。夕食休憩前までは藤井有利の状態だったが、疑問手(79手目の4五桂)により、形勢が混沌としていった。

 終盤戦、AI評価値の揺れ動く局面で互いに持ち時間を使い切り1分将棋へ。この攻防が明暗を分けた。「AI将棋の申し子」ともいうべき藤井七冠は常にAI最善手を模索するのに対し、「粘り」を持ち味とする永瀬王座はAIが「攻めるべき」と判断した局面でも「守る=粘る」ことを数多く選択した。

「1+1=2」であるように、現代のAI将棋には必ず〝正解〟がある。AIの導く最善手以外のものは本来、「誤り」であり「ミス」である。感性や個性が認められない世界とも言える。

 だが、永瀬王座はAIが選ばない手で〝らしさ〟を存分に発揮し藤井の攻めを受け切る形で、初戦白星を飾った。将棋界では各棋士の「棋風」や「個性」といった言葉今なお使われており、今回の対局も永瀬王座の「粘りの棋風」が顕著になった終盤戦だった。

「1+1」は「3」でも「4」でもいい。〝正解〟があるのに、個性の入り込む余地がある、そんな将棋の魅力をあらためて感じた一局であった。第2局は9月12日に神戸市の「ホテルオークラ神戸」で行われる。