8月31日という日付を見て、夏休みの最終日を思い出す方は少なくないだろう。あっという間に時が流れ、気が付くと終わりを迎える幼少期の夏休み。そんな不思議でいとおしい時間を題材にしたゲームを作り続けているクリエイターが、「ぼくのなつやすみ」シリーズの生みの親、綾部和氏だ。

ⒸSony Interactive Entertainment
ⒸSony Interactive Entertainment

「ぼくなつ」は大人世代からも絶大な支持を得ているロングセラー。昭和の夏休みを小学生の視点で体験できるゲームで、自然豊かな田舎を舞台に、昆虫採集や魚釣りが楽しめるのだが、綾部氏は〝レトロな夏休み〟にどのような愛着を持っているのか。先月発売された最新作「なつもん!20世紀の夏休み」の制作秘話とともにたっぷり語ってくれたインタビューをあえて31日にお届けする。過ぎ行く夏に思いを馳せて…。

 ――そもそも幼少期はどんな夏休みを過ごしていた

 綾部 実はあまり外で友達と遊んだりしない子供だったんですよ。家の中で工作をしたり、1人で遊んでましたね。ただ、うちは兄弟が3人いて、毎年夏休みの間は私1人だけ親戚の家に預けられていたんです。そこには自分の遊び道具がないから、自然と外で遊ぶようになって、その経験がそのまま「ぼくのなつやすみ」の設定になっています。

 ――大人になった今、「ぼくなつ」のような過ごし方はするのか

 綾部 釣りは今でも好きですね。それにゲーム制作そのものが、子供時代に工作作ってたのとあまり変わらない感覚なんですよ。元々何でもかんでも自分で作るのが好きで、その延長線上でゲームを作っている感じですね。妻と結婚する時も条件として「怖いから家だけは自分で作らないでね」と言われました(笑い)。

昆虫採集は夏休みの鉄板(「なつもん!」から)
昆虫採集は夏休みの鉄板(「なつもん!」から)

 ――これまで昭和の夏休みを多くモチーフにしている

 綾部 そもそも映画でも音楽でも昔のものが好きなんです。あと「ぼくなつ」の企画書を初めて見た友達が、「夏休みは嫌いな人がいないからいいね」と言ってくれまして。得意分野と万人が好きなモチーフを組み合わせた結果が「ぼくなつ」、そして「なつもん!」になったのかなと思います。

 ――ゲームで体験できる昭和の夏休みは、〝失われた風景〟と称されることもある

 綾部 細かく見れば当時のものは少なくなっていますが、ただ大枠で見ると、皆さんが思っている以上に変わっていないとも感じます。失われたのは風景ではなく人間や空気感なんですよね。ゲームでは変わっていない部分より、「なくなってしまった空気感」を大事にするようにしています。

 ――ノスタルジックな演出を選んでいるのか

 綾部 最初から狙っている訳ではないんですよ。私は北海道出身なので、8月も15日を過ぎると涼しくなって海にも入れなくなる。北国の人間にとって夏は短くて切ないものなんです。

 ――そこが関係していたとは

 綾部 以前都知事もされていた作家の青島幸男さんとお会いした時にも、「クリエイターは子供の時の体験から逃げられない。自然に出てきてしまうからしょうがないよ」と教えていただいたことがあって。実際「ぼくなつ」の1、2作目は関東の夏休みというイメージで作ったのに、気付いたら北海道のような切ない夏休みになっていたんですよね。にじみ出てしまう分、ノスタルジーは強く意識しないようにしています。

今は少なくなった〝町の夏祭り〟(「なつもん!」から)
今は少なくなった〝町の夏祭り〟(「なつもん!」から)

 ――夏休みのゲームを作り続けたいという意欲はあったのか

 綾部 「ぼくなつ」を作り始めた時、ライフワークになるとは全く考えていなかったですね。ただ、うちにゲームの制作を依頼する方はありがたいことに過去作のファンが多いので、今までのレトロなテイストを残してほしいという要望が出るんですよ。ですから今は外から求められながら、私自身も楽しみながら夏を舞台にした作品を作っている感じですね。

 ――開発中は常に夏休みのことを考えている?

 綾部 さすがに考えるのは、立ち上げの段階や内容を決めている時だけですね。ただ開発室には真冬でも(ゲームの)セミの声が響いていることもあって。時代と季節を飛び越えている感覚は常にあります。

 ――他の季節や、中高生の夏休みをテーマに作りたいと思ったことは

 綾部 「ぼくのなつやすみ3」で北海道を舞台にした時に、〝冬休み版〟は設定として考えてはいたんですよ。ただ、今、0から冬休みのゲームを作れと言われると、夏休みほどイベントが多くないので困ってしまうかもしれませんね…。あと中高生の夏休みを描くゲームも考えたことはありますよ。せっかく「ぼくなつ」がヒットしたのだから、そのまま小学生路線を続ければいいのでは、みたいなことは周りに言われた気がしますが(笑い)。