【松本薫の野獣道(18)】2018年11月に講道館杯に出場しました。「たぶん最後の試合になる」と思っていたので両親や家族を呼んだら、みんな来てくれたんです。もちろん、試合に向けて普段通りのルーティンで準備をしていたのですが、フワフワした感じのまま畳に上がると「どうしよう、勝ちたくない」って、気持ちが湧き上がってきました。

 ただ、序盤に有効を取られた時、取られたら取られたでちょっと悔しくて「ムカつくな」と思った瞬間に相手を投げていましたね(笑い)。その後も「勝ちたくないな」という気持ちがずっと続くんです。今まで、そんなことを考えることはなかったので「これが潮時か」と思いました。

 試合終盤は、体力的にもキツくて最終的には仕留めてもらえた瞬間はすごいうれしくて「やっと自由になれたんだ」って(笑い)。笑顔のまま観客席に上がって「応援してくれたみなさん、今日で引退します。ありがとうございました」と伝えました。ベネシードの社長(片山源治郎氏)にも電話して「負けました、引退します」と伝えたら「そうか、ガハハ」という反応でしたね。

 記者会見は19年2月でした。引退会見って涙ポロポロというイメージがあったのですが、いざ自分がその場に立って話してみても、その気持ちが全くわかりませんでした(笑い)。絶対聞かれる「次は何をするんですか?」という質問には、当時、現在進行形で取り組んでいた「アイスを作ります」と宣言しました。なんかすごいザワザワしていたのを覚えていて。顔なじみの記者の方も笑っていたので「あれ、誰も泣かないの?」みたいな感じでした(笑い)。

 実は現役時代から柔道を辞めた後のセカンドキャリアについては考えていました。帝京大を卒業する際に「五輪」と「その先の人生」の2つがマッチするような進路を探しましたね。実業団によっては午前中に仕事をし、午後から練習をするところもありますが、そんな器用なことはできないと思っていました。

 そんな時にベネシードと出会って「引退後に何かやりたいことありますか?」と聞かれた時に「今は五輪のことしか見えていません」と返答したら「引退後のことは一緒に考えていきましょう」と言ってくれたんです。最初からアイス作りに携わるとは思っていなかったけど、現役中は柔道に専念して、引退後も一緒に働いていける仲間を見つけることができた、と思いましたね。