【多事蹴論(75)】日本代表イレブンの憩いの場が“事件現場”になった――。2006年ドイツW杯出場を目指していたジーコジャパンは頻繁に国内合宿を実施した。ハードな練習とともにメンバー生き残りをかけたサバイバルレースともなる代表キャンプは常に緊張感が漂うなど、心身ともに大きな負荷がかかる。そんなイレブンのストレスを解消していたのはお風呂という。

 合宿中は外出もままならないため、練習以外の時間をいかにリラックスして過ごすかも重要な要素。そこで選手たちは入浴を充実させるため、アロマキャンドルなど、さまざまなお風呂グッズを持ち込み、楽しんでいたという。また、チーム側も全国各地で人気を集める有名温泉の入浴剤を準備。イレブンの一番人気は「草津の湯」。乳白色に染まった湯で温泉の雰囲気を味わえるのが魅力だったようだ。

 合宿中の貴重なリラックスタイムとあってお風呂好きのイレブンは多く、特にジーコジャパン時代の選手たちに人気だったのは、定期的に行われた宮崎合宿で宿泊していたホテル最上階にある展望温泉だ。目の前に広大な海原が広がる絶好のロケーション。練習の合間や食前食後など、日に3、4度も入浴する選手たちも。心身のリフレッシュをするとともに“裸の付き合い”をするコミュニケーションの場にもなっていた。

 ただ、日本代表が合宿を行うと、宿舎の周辺には多くのサポーターが集結。中には選手たちを一目見ようと、ホテル最上階の展望風呂に向けて双眼鏡を構えるファンの姿も見られたという。ジーコジャパン時代に活躍したある主力選手は「ホテル周辺の砂浜からサポーターが指さしながら風呂を見上げているんですよ。本当に見えるのかどうかわかりませんけど、あれってのぞきですよね」と困惑していた。

 さらにドイツW杯切符を手にしたジーコジャパンは、チーム強化のために実施した06年1月の宮崎合宿で“事件”が起きた。練習で疲れた体をリフレッシュするために多くの選手が展望風呂を利用している中、代表の常連だったMF小笠原満男が脱衣所で「マジかよ!」と絶叫。その場に居合わせたイレブンによると、入浴を終えて着替えようとしていた小笠原のパンツだけがなくなっていたという。

 もちろん、盗難ではなく、誰かが間違えてはいていってしまったり、いたずらで隠された可能性もあった。それでも同僚イレブンはおもしろがって「パンツ泥棒だ」と大騒ぎ。前出選手は「満男の服(ジャージー)はあってパンツがない。ほかの選手に被害はなかったけど、なんでパンツ?」と首をひねるばかり。熱狂的なファンであれば身に着けているものを欲しがる可能性もある。真相は不明だが、不可思議な“事件”だった。(敬称略)