【多事蹴論(5)】1993年に発足したプロサッカーのJリーグは大フィーバーを巻き起こし、社会現象になった。試合チケットはプラチナ化し「満員御礼」が連発。スタンドからは若い女性の声援が飛び交い、テレビ各局もゴールデンタイムに生中継したほど。中にはベンチ入りもままならないレベルの選手がテレビCMに起用されるなど、まさにJリーグバブルだった。

 その象徴となったのはヴェルディ川崎(現J2東京V)だ。司令塔のMFラモス瑠偉を筆頭に主将のDF柱谷哲二、カズことFW三浦知良、FW武田修宏、MF北沢豪ら多数の日本代表を擁したスター軍団。高級外車を乗り回し、洗練されたファッションを着こなすなど、スポーツ界に新風を吹き込み、大ブームをけん引した。

 そのV川崎は圧倒的な戦力を武器に初代Jリーグ王者に輝いたこともあり、オフの契約更改で大盤振る舞い。リーグ最優秀選手(MVP)となったカズは2億4000万円、ラモスは1億8000万円、柱谷が1億5000万円、武田は1億2000万円、北沢が1億円と5人が億超えプレーヤーとなり、プロスポーツの先駆者、野球に迫る勢いとなった。

 そんな破竹の勢いでスタートしたJリーグは当時の世界サッカー情勢に照らし合わせても“トップレベル”にあった。

 世界最優秀選手賞「バロンドール」を選定する「フランス・フットボール」誌をはじめ各メディアは、94―95年シーズン前に世界高額年俸ランキングを掲載。当時のナンバーワンはイタリア1部ユベントスの元同国代表FWジャンルカ・ビアリの約2億8000万円で2位が同じユベントスの同国代表FWロベルト・バッジョの約2億6000万円と報じていた。

 当時のイタリアは各国のスター選手が集結する世界最高峰リーグ。各メディアの報道は金額などに多少の“誤差”はあったものの、イタリアクラブの選手がランキングの上位を独占。93年に創設されたばかりのJリーグ勢の年俸は欧州メディアに反映されていなかったが、V川崎時代、カズの年俸2億4000万円は当時の世界トップ5に入る金額だったわけだ。

 しかし、当時のJリーグにはカズ以上に稼ぐ“隠れ世界1位”の選手がいた。当時、名古屋に所属していた元イングランド代表のエースストライカー、FWガリー・リネカーだ。日本サッカーのプロ化に合わせて来日したが、年俸3億円と報じられたように、世界トップ選手よりも高額なサラリーを受け取っていたのだ。当時のJリーグバブルの勢いがうかがえる。

 ちなみに欧州メディアによると、2020年6月時点で世界最高年俸はスペイン1部バルセロナのアルゼンチン代表FWリオネル・メッシで4600万ユーロ(約55億円)で、フランス1部パリ・サンジェルマンのブラジル代表FWネイマールが2位で3600万ユーロ(約43億円)とされる。(金額はすべて推定)