完全に〝別人〟だ。大相撲春場所8日目(19日、大阪府立体育会館)、元大関の幕内正代(31=時津風)が、小結若元春(荒汐)を一方的に寄り倒して6勝目(2敗)。取組後は「(出足の)勢いのまま攻められた」と納得の表情を浮かべた。

 昨年秋場所から2場所連続の負け越しで、大関から陥落。10勝すれば大関に復帰できる先場所も6勝9敗と低迷し、今場所は3年ぶりに平幕へ転落した。

 それが、初日から見違えるような力強い相撲で復活の兆し。その理由は、昨年末に痛めた右足親指の不安が解消したことだけではなさそうだ。日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)は今場所の正代について「ノビノビ取っている」「気持ちが違うのでは。大関の時は(地位を)意識していた」と指摘する。

 実際、正代も昨秋の大関昇進披露宴で「大関のプレッシャーに、まだまだ気持ちが追い付いていない」と本音を吐露。良し悪しは別にして、看板力士の重圧から解放されたことが、精神面ではプラスに作用しているようだ。今場所は横綱照ノ富士(伊勢ヶ浜)が初日から休場し、7日目には大関貴景勝(常盤山)も途中休場。横綱大関の不在は、昭和以降初の異常事態を迎えている。

 それでも、今の正代には「元看板力士」としての意地やプライドを示す気は全くない。「気負うと勝てなくなるタイプ。正直、気楽に持ち味を出すことに集中できたら」。横綱大関不在の中でトップと2差は、まだまだ優勝圏内。肩の荷を下ろした元大関が〝ノビノビ相撲〟で先頭を追いかける。