【多事蹴論(64)】キング・カズが苦悩するパフォーマンスの是非とは――。日本代表エースとして君臨したカズことFW三浦知良にとって得点を決めた直後のゴールセレブレーションで見せる“カズダンス”は自身の代名詞となっている。両手を回しながら細かなステップを踏み、左手を股間に当て、右人さし指を突き上げる歓喜のシーンにサポーターは熱狂してきた。

 もともとはイタリア1部ナポリでプレーし、J1柏にも所属したブラジル代表FWカレカがサンバを取り入れたゴールパフォーマンスをしていたことにあこがれて、ブラジル1部サントス時代にマネし始めたという。時を経て改良を重ねているが、FW城彰二やFW李忠成も“カズダンス”を披露。影響を受けた子供たちも模倣するなど、サッカー界では広く親しまれている。

 しかし、ゴールを決めたからといって、いつも踊るわけではない。カズ本人によると、ダンスをするかどうかの可否判断にはかなり神経を使うという。「ゴールしたから毎回、やるってわけにもいかないからね。試合に負けている状況でやるわけにもいかないし、同点だったらいいのか、アウェーならどうなのかとかね。試合の状況とかスタジアムの雰囲気とかもある。それに相手サポーターの前でやるのも良くない。その辺の判断は難しいんだよ」

 ゴールを決めることは特別なことだ。ただ試合に負けている状況でダンスを披露しても「そんなことをしている場合じゃないだろう」と非難されかねない。また敵地での試合ならば、相手サポーターを刺激してしまうケースもある。さらにレフェリーの判定やプレーによって小競り合いが起き、不穏なムードが漂っている場合も自粛するなど、パフォーマンスありきではないのだ。

 実際に2011年3月29日に行われた東北地方太平洋沖地震復興支援チャリティーマッチ(大阪・長居、日本代表―Jリーグ選抜)で、カズは唯一のJ2(横浜FC)所属ながらも選抜チームのメンバーに抜てき。後半途中から出場したカズは0―2のビハインドで迎えた37分にゴールを決め“カズダンス”を踊った。当時44歳のベテランが若手とともに奮闘する姿は被災した方々に勇気と感動を与えた。

 しかし、カズ自身は最後まで同戦でパフォーマンスをすることに葛藤があったという。「こんな状況(被災からわずか18日後)で本当に踊っていいのかどうか…。こんなときにって思う人もいるかもしれないので、そこはかなり迷ったけど、お客さんもゴールを喜んでくれていたし、自分がパフォーマンスをすることで、誰かの力になるのであれば…そう思ってやったけど」と、複雑な心境を語っていた。

 近年は“カズダンス”を見る機会が激減しているが、新天地ポルトガルでは自慢のステップで何度もサポーターを熱狂させるはずだ。 (敬称略)