【多事蹴論(63)】“キング”のひと言が大きな波紋を広げた――。プロサッカーのJリーグが発足した1993年当時「スター軍団」と呼ばれていたV川崎(現東京V)のMF北沢豪は“ダイナモ”と称されたように豊富な運動量を武器に黄金期を支えた名プレーヤーだ。本田技研に所属していた1990―91年の日本リーグ(JSL)では得点王を獲得し、日本代表では国際Aマッチ58試合出場(3得点)を果たした。
日本代表が初出場した98年フランスW杯の大会直前にエースFW三浦知良とともにメンバーから落選。サッカー界のみならず、社会を揺るがした大騒動に巻き込まれた。現在はサッカー解説者として活動するとともに日本サッカー協会のフットサル委員会委員長、日本障がい者サッカー連盟会長を務めるなど、国内外の幅広い活動でサッカー界に貢献してる。
そんな北沢が96年10月10日に東京・国立競技場で開催されたJリーグのJOMOドリームマッチ(J日本選手選抜―J外国籍選抜)に出場したときのこと。各クラブから選ばれた選手たちとともに控室で待機していると、カズが到着。
スーパースター選手の登場にイレブンが注目する中、カズは北沢に歩み寄り、周囲にキチンと聞こえるくらいの小声で頭を指さしながら「キーちゃん…ちょっとズレてるよ」と言い放ったという。
当時28歳だった北沢によると、かねて長髪でおでこが広いこともあって、薄毛と見られることも多く、所属チームでも“ヅラ疑惑”がささやかれていたという。そこにプライベートでも親交のあるチームメートのカズがわざわざ指摘したことで、他クラブの選手たちも敏感に反応。それまで騒がしかった控室は一瞬、静まり返ると「本当に?」「やっぱり、そうなの?」とヒソヒソ声が聞こえ始めたそうだ。
北沢は「カズさんが冗談で言っているだけなのに、本気でヅラだと思われたみたい。みんなの視線がオレの頭に集中していたし、練習中も見られている感じだった。直接『ヅラなの』って聞いてくれれば、否定もできるんだけど、みんな気を使っている感じで、そんな雰囲気じゃなかった。カズさんはずっと笑っているだけだったしね。あの人、絶対に確信犯でしょ。本当に違うから」と困惑しながら話していたが、疑惑はサッカー界に広がっていった。
北沢は惜しまれながらも2002年シーズン後に現役を引退。テレビ番組などに出演した際、選手時代のエピソードを求められると「昔、東スポに『北沢、ヅラ疑惑』って書かれて本当に困った。それで話が拡散されてしまって大変だった」と語っていたが、このエピソードが周囲の笑いを誘う“鉄板ネタ”となっているようだ。(敬称略)














