広島・長野久義外野手(37)の巨人へのトレード移籍が合意に達したと両球団から2日、正式発表された。長野は2019年1月に巨人がFAで獲得した丸佳浩の人的補償で広島に加入。巨人には5シーズンぶりの復帰となる。電撃トレードの舞台裏ではどんな動きがあったのか――。広島・鈴木清明球団本部長の言葉から、スターを巡るドラマを振り返る。

 トレードの経緯がここまで明かされるのは、異例と言えるだろう。広島・鈴木本部長は同日、巨人復帰に至った流れを説明。広島側からの打診であったことを明かした上で「一人の野球選手の人生を考えたときに、やっぱりこの形が一番いいんじゃないかなというのは理解をしてもらいたい」と語った。

 長野はそれだけ広島で大きな存在となっていた。在籍4年間を振り返り「チームのために一生懸命やってくれて、選手には尊敬され、ファンから愛されて。人格的にもプレーヤーとしても素晴らしかったことは間違いない」と感謝を述べた。

 とはいえ、カープも鈴木本部長も当初は半信半疑で長野という選手を迎え入れた。10年から18年まで巨人担当を務めた私が19年に長野と同時に広島担当として赴任した際、同本部長にあいさつすると開口一番、こうたずねられた。

「おい、なんであいつがリストから外れとったんか。約束はないんか?」

 当時の巨人が長野をプロテクトリストから外し、広島に指名されたのは不覚、おごりというしかない。ただマイペースで単純な組織理論では動かない男を持て余していたのも事実。一方で世間で言われるような〝密約〟めいたことが存在しないことだけは断言できた。

 それでもなお、鈴木本部長は納得しない。その後も「来年いきなり戻ってしまうようなことはないじゃろな?」としばらく逆取材を受けた。だが番記者ごときをつかまえずとも、時間が過ぎれば長野という男の本質はすぐに伝わる。「頑固なところはあるが、噂通りのええ男じゃの」と笑っていたことを思い出す。

 ただカープ在籍4年間で戦力として期待していた存在感を示すまでには至らなかった。チーム成績も低迷し、多少強引にでも世代交代を進める必要もあった。外様のベテランが望む出場機会を用意するのは難しくなっていった。

 鈴木本部長が「去年くらいから彼とはいろいろ話はした」と明かした通り、実は昨オフから移籍の話は静かに動いていた。トレード、FA、自由契約…。あらゆる手段が想定された。

 一方で鈴木本部長は「ゆっくりここにおったらええじゃないか。ずっと一緒にやろうや」とも常に声をかけていた。広島でユニホームを脱ぎ、その後もカープにとどまってもらう構想もあった。実際に今回もトレードがまとまらなければ、残留契約する意向だったことを明かしている。

 この日は「いつかユニホームを脱ぐことがあるとすれば、巨人で脱ぐべきじゃないかというのは、ずっと思っていた」と語った。この言葉も本心からだろうと受け取っている。長野を深く知ったからこそ生まれた親心だろう。

 鈴木本部長の巨人への対抗心は強烈だ。あるOBを指し「巨人へ行ったら終わりじゃの」と背筋が凍るつぶやきも聞いた。でも長野に対しては…。「待っとるぞ」と笑いながら送り出すんじゃないか。そんな気がしている。