ロシアの新興財閥幹部=オリガルヒの死亡報道が止まらない。ロシアの国営タス通信は1日、ロシアの石油大手ルクオイルのラビル・マガノフ会長(67)が入院先の病院の窓から転落して死亡したと報じた。ロシア当局は自殺としているが、今年に入ってオリガルヒ幹部は少なくとも8人が不審死を遂げており、世界中で反プーチン派を狙った暗殺を疑う声が上がっている。

 自殺、一家心中、原因不明…。今年に入ってロシアではさまざまな形でオリガルヒ幹部の死亡が相次いでいる。旧ソ連崩壊後、現在のプーチン大統領ら政府が支援する形で急成長したオリガルヒだけにプーチン氏とは蜜月関係だったが、今年2月のウクライナ戦争勃発以降、急速に関係が悪化していった。

 元警視庁刑事で日本安全保障危機管理学会インテリジェンス部会長の北芝健氏はこう話す。

「プーチンがオリガルヒの急成長を支援する見返りに資金面で援助を受けていたのは有名な話。しかし、プーチンの独断で始まったウクライナ戦争で、西側諸国の制裁を受ける立場になったオリガルヒは、ウクライナ戦争反対を表明するようになった。これがプーチンに裏切りと映り、次々に不審死を招く結果になっていると欧米の情報機関は見ている」

 1日に自殺したとされるマガノフ氏は表だってウクライナ戦争を批判していたオリガルヒの一人だった。

 4月にはロシア大手銀行ガスプロムバンクの元副社長が、拳銃で無理心中をはかり死亡したと当局が発表したが、使われた拳銃はロシア特殊部隊のものだったことが明らかに…。さらにこの翌日にはエネルギー大手ノバテク社の元副会長も無理心中で死亡したとされ、にわかに信じがたい事件が連続している。

「プーチン政権下では銃や毒物のほか、放射性物質まで使用した不審死事件が数多く起こっており、一連のオリガルヒの不審死はプーチンの指示とみて間違いない。過去にプーチンは人を殺したことがあるか聞かれ、『それは、自分の手を汚したことがあるか、ということか?』と答えたが、反逆者を抹消するためなら何でもアリな人間だ」(北芝氏)

 一方で反プーチン派も「目には目を」の強硬策に出始めている。先月20日、プーチン氏を支えると言われる極右思想家が乗る予定だった車が爆発炎上。乗っていた同思想家の娘が爆死した。

 かなり近いとされる人物を狙った暗殺未遂だけに、プーチン氏にも暗殺の手が近づいているのかと思いきや、北芝氏は「超厳戒態勢を敷くプーチンを狙撃で暗殺することは不可能。また毒見役が存在するため毒殺もできない」とプーチン暗殺の可能性を否定した。

 一方で「今後もウクライナ戦争に反対するオリガルヒ幹部の暗殺は続くでしょう。ガスプロムバンクの副社長の死亡現場にロシア特殊部隊の拳銃が残されていたのは、『私に反逆したらこうなるぞ!』という暗示だ」と示唆。まだまだ〝おそロシア〟な状況は続きそうだ。