大相撲初場所開催中の16日、春日山親方(40=元幕内浜錦)が日本相撲協会を退職した。この日、先代春日山親方の岩永祥紀氏(50=元幕内春日富士)に年寄名跡証書の引き渡しを求めていた控訴審の和解協議が決裂。相撲協会へ証書を提出する義務を果たせず、自ら退職する道を選んだ。協議が物別れに終わった主な理由は、証書の対価として支払う金銭面の問題。角界が抱えるデリケートな問題が改めて浮き彫りとなった格好だ。

 春日山親方と先代の岩永氏との間で争われていた控訴審の和解協議が16日午前、東京高裁で行われた。しかし、年寄名跡証書の引き渡しをめぐる条件面で折り合わずに協議は決裂。午後に春日山親方が日本相撲協会へ退職届を提出して受理された。

 相撲協会は親方全員に年寄名跡証書の提出を義務付けている。春日山親方は先代の岩永氏が証書を保有し、しばらく未提出の状態が続いていた。これまで相撲協会は再三にわたって提出期限を猶予してきたが、春日山親方が昨年12月末に自ら「1月16日までに証書を提出できなければ親方を辞める」と明言。期日までに証書を得られなかった以上、自主的に退職するしか選択肢はない。春日山親方は「(証書を)提出できなかったので、こういう結果になった」と無念の表情を浮かべた。

 角界では力士が現役引退後に親方(指導者)となるためには年寄名跡を取得する必要がある。今回の「春日山」の他にも「出羽海」「時津風」「二所ノ関」など105の名跡が存在する(一代年寄を除く)。幕内通算20場所以上などの諸条件を満たした者が、先代からの後継者指名を受けて引き継いでいく制度だ。年寄名跡証書は弟子の指導や育成をするために必要な「免許証」でもある。

 その一方で、今回の問題でクローズアップされたのが年寄名跡の譲渡に伴う金銭授受の存在だ。昨年8月の一審判決では横浜地裁が年寄名跡の金銭的な価値を認め、春日山親方が証書を受け取る対価として岩永氏に1億7160万円を支払うよう命じている。春日山親方も今回の訴訟で和解不成立の理由について「金額です」と明言した。

 2014年1月の公益法人化に伴い、年寄名跡の譲渡に伴う直接的な金銭売買は禁止された。ただ「顧問料」や「指導料」などの名目で先代に報酬を支払うことまでは禁じていない。角界内の論理では、年寄名跡を譲り受けた恩義に報いるためにも一定の対価を払うことは、今でも“常識”なのだ。しかし、一般の世間の目から見ると億単位の金額が飛び交うことは“非常識”と映ることだろう。

 その是非は別にして、相撲協会は年寄名跡の譲渡の条件をめぐる協議には不関与の姿勢。あくまで個人間の交渉に委ねている。しかし、今回のみならず過去に金銭トラブルが発生した例があるだけに、今後も同様の問題が再発しない保証はない。

 春日山親方は「納得はいかない。(協会には)何らかの取り決めをつくっていただいて、自分のように部屋を閉鎖し、こういった形で退くというのをなくしていってほしい」と話したが、八角理事長(53=元横綱北勝海)は「残念だ。年寄名跡は先代との関係の中で脈々と受け継がれてきたものなのに、その先代と裁判をすること自体がおかしい」とコメント。その主張には大きな隔たりがある。公益法人となった以上は「カネ」がらみの問題で注目を集めることは避けたいところだが…。今後も大きな火ダネを抱えた状態が続くことになりそうだ。