ロシア軍の将官級の首をあと何人仕留めるのか? ロシアのウクライナ侵攻で、最大の激戦地となっている南東部マリウポリで、圧倒的優勢を誇るはずのロシア軍が手を焼いている。主力部隊を率いる少将が殺害され、特殊作戦部隊が壊滅したのだ。いずれもウクライナ軍の特殊部隊「アゾフ連隊」の攻撃とみられ、その手際の良さに「“ゴルゴ13”級のスナイパーがいるのではないか?」と、謎のスゴ腕狙撃手の存在が注目されている――。

 マリウポリはロシア軍が先月24日、ウクライナ侵攻後にすぐさま包囲した港湾都市だ。街は完全に包囲され、砲撃と空爆で民間人2500人以上が死亡。2週間以上にわたって食料や水、電気などのライフラインが断たれた状態に陥っている。さらにロシア軍は病院を占拠し、400人の人質を取るという暴挙にも出ている。

 ところが、だ。ウクライナ政府は17日までに、ロシア軍の第22特殊任務旅団部隊を壊滅させ、陸軍第150自動車化狙撃師団を率いるオレグ・ミティアエフ少将を殺害したと発表した。

「ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記」の著書があるジャーナリストの常岡浩介氏は「なんでこうなるのか、という連続。ロシア軍はマリウポリを包囲し、ロシア本土からもつながっているので、キエフにいる部隊と違って補給もできる。一番有利な状態で戦っているのに、なぜ親分の少将が殺されるのか」と、“戦争の常識”では考えられない事態だと指摘する。

 第22特殊任務旅団は「スペツナズ」といわれる特殊訓練を受けたエリート集団だ。またミティアエフ少将とみられる遺体の画像はSNS上にさらされているが、砲撃などによる外傷はなく、腹部が血で染まっており、狙撃されたとみられる。

「スペツナズは敵の中枢を排除するために接近、殲滅(せんめつ)する部隊なのに、逆にゲリラ的にやられている。また遠くから撃ち殺されていれば、遺体はロシア側に回収されるが、ウクライナ側に渡ったとなると、スナイパーが少将だけを撃ち殺したのではなく、部隊全体をアンブッシュ(待ち伏せ)的な作戦で奇襲をかけたのではないか」(常岡氏)

 約20人いるとされるロシア軍の将官級の戦死は侵攻後これで4人目。マリウポリ周辺では、今月2日に中部軍司令部で第41連合軍副司令官のアンドレイ・スホベツキー少将が演説中にスナイパーの狙撃で死亡。11日には東部軍管区の指揮官だったアンドレイ・コレスニコフ少将の戦死が状況不明で伝えられた。

 ロシアやウクライナでは旧ソ連時代から、スナイパーチームは重要視されているが、相次ぐ将官級の殺害劇に劇画「ゴルゴ13」のデューク・東郷や「007」のジェームズ・ボンド級の腕前を持つスナイパーがウクライナ側に存在しているとみられる。

 先週には、カナダ人の最強スナイパーといわれるワリ氏が義勇兵としてウクライナ入りし、対戦車要員として最前線に派遣されているが、少将殺害やスペツナズの部隊壊滅は、いずれもウクライナ軍に所属するアゾフ連隊が関与しているとみられる。

 アゾフ連隊はマリウポリを拠点にしてクリミア半島がロシアに強制編入された2014年に創設された義勇兵部隊で、白人至上主義、ネオナチ極右軍ともいわれる。同年からのドンバス戦争で親ロ派勢力との争いで台頭し、国家警備隊になった。

 現在はウクライナ国内の激戦区に部隊が展開しているとされ、9日にはキエフ東側に侵攻したロシア軍の戦車隊をドローンで一斉攻撃し、足止めした映像を公開している。

 16年にマリウポリのアゾフ連隊基地を取材した常岡氏は「欧米に対し反発心があり、アメリカからも武器を渡したらテロに使われるんじゃないかと警戒された右派セクターで、ヤンキー集団みたいなものを想像した。しかし実際行ってみると、愚連隊のようなものではなく、まともな軍に見えた」と振り返る。

 ウクライナ人のユダヤ財閥イーホル・コロモイスキー氏が資金提供しており、最新兵器や装備を揃え、今回もロシア軍を迎え撃っている。

「一番戦況が厳しいところに差し向けられているが、一番とんがっている連中であり、士気が高い」(常岡氏)

 圧倒的な戦力を誇るロシア軍の優勢に変わりはないが、アゾフ連隊や腕利きスナイパーの徹底抗戦で、プーチン大統領は思うように事を進められない状況が続きそうだ。

【元スペツナズ狙撃手に勝利した男】ゴルゴ13ことデューク・東郷は、さいとう・たかを氏(昨年死去)が手掛けた劇画「ゴルゴ13」の主人公だ。愛用のM16スナイパーライフルで、どんな困難な状況でも一発必中でターゲットを仕留める驚異の仕事ぶりで、世界中からオファーが絶えない。

 100メートルを10秒02で駆け抜ける俊足、筋骨隆々のボディーから繰り出す格闘術、ホルスターから拳銃を抜く早撃ちは0.17秒と人間離れし、狙撃だけでなく、近距離戦でも無類の強さを誇る。

 ゴルゴは元スペツナズの名スナイパーとの狙撃対決で勝利を収めたこともある。各国の首脳、軍隊、諜報機関、マフィア、大富豪、地下組織を手玉に取るが、常に命を狙われる身でもある。