もう誰にも止められない。前代未聞の会見拒否を表明した女子テニスの世界ランキング2位・大坂なおみ(23=日清食品)が4大大会「全仏オープン」(パリ)の女子シングルス1回戦(30日)で、同63位パトリチアマリア・ツィグ(26=ルーマニア)に6―4、7―6(7―4)でストレート勝ち。試合後は会見ボイコットを決行し、主催者から1万5000ドル(約165万円)の罰金を科された。一連の行動には日本テニス協会幹部からも苦言が出たが、もはや大坂に意見できる存在は日本には皆無。さらなる“モンスター化”は必至だ。

 大坂は27日にツイッターで「アスリートの心の健康状態が無視されていると感じていた」と会見拒否を表明。大きな波紋を広げる中、センターコート第1試合に登場した。序盤から角度あるフォアのクロス、狙い澄ましたリターンエースを決めて最初のセットを奪取。第2セットもクレー巧者の相手にヒケを取らない。第1サーブ得点率は約90%と安定感を誇り、タイブレークにもつれた末のマッチポイントでは鮮やかなバックのウイナーで勝負を決めた。

 試合直後のオンコートインタビューでは「進歩しています。もっと試合をしたら、もっと良くなると思う。一日一日、進むつもり」と笑顔で話したが、その後は宣言通りに最大2万ドル(約218万円)の罰金覚悟で、報道陣が求めていた会見を拒否。そのまま会場のローランギャロスを後にした。

 今回の一連の騒動には大会前から様々な意見が噴出していた。全仏主催者でフランステニス連盟のジル・モレトン会長は「これはひどい間違い。受け入れられない」と非難。男子の世界ランキング1位ノバク・ジョコビッチ(34=セルビア)は「会見もスポーツの一部」と指摘し、女子1位でライバルのアシュリー・バーティ(25=オーストラリア)も「会見は仕事の一部」との見解を述べており、選手からも否定的な声が飛んだ。

 日本テニス協会の倉光哲理事(76)も「私も選手経験があるので、大坂選手の気持ちはよく分かる」と言いつつ「今、日本のテニスは世界的にも認知されています。特に大坂選手の存在はすごく大きい。だから、ここはグッと我慢して受け答えをしないといけない。テニスの業界でご飯を食べているのですから」と苦言を呈した。

 とはいえ、現状で大坂をたしなめられる存在は日本には見当たらない。あるテニス関係者は「恥ずかしい話ですが、彼女クラスになると協会では手に負えない」と打ち明ける。実際、現場の強化スタッフですら試合以外の案件になるとエージェントを通さないと直接、話ができないこともあるという。今回の会見拒否に関しては日本のマネジメント会社にも事前の連絡がなかったと言い、もはや日本側はコントロールできない状況なのだ。

 昨年は「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」の運動に積極的に参加し、黒人差別への抗議として8月の「ウエスタン&サザン・オープン」では出場のボイコットも示唆。さらに、9月の全米オープンでは7種類の黒人被害者の名前入り“抗議マスク”を着用して優勝を果たすなど、コート内外で大きな影響力を見せてきた。

 世界的なスポンサーを抱え、年収は女子アスリートで世界一の約60億円。日本テニス界が長らく待望してきたスター選手に成長したが、ここまでの“モンスター化”までは想定外。わが道を行く女王は、ここからどこへ向かうのか。