まさに主演女優だ。白血病のため長期休養していた競泳女子の池江璃花子(20=ルネサンス)が、日本学生選手権(東京辰巳国際水泳場)で驚きのパフォーマンスを披露した。1日に行われた50メートル自由形は25秒62で4位。あと一歩で表彰台という結果に、本人の自己評価はもちろん周囲からも賛辞が贈られた。自分のペースを保ちながら復帰ロードを順調に歩む姿に、注目度はさらに急上昇中。渦中の〝あの人〟に代わり、競泳界の「看板選手」としての期待も高まっている。

 池江にとって1年間の思いが詰まったレースだった。予選を全体6位で通過すると、決勝では上位に食らいつくような泳ぎを見せてフィニッシュ。表彰台の3位とわずか0秒04差のタイムに「4番(位)という結果は正直悔しいんですけど、今の段階では上出来かな」と振り返った。

 白血病との闘いから練習再開後は今大会をターゲットとして地道に汗を流す日々が続き、8月29日の東京都特別大会で参加標準記録を突破。そこからウエートトレーニングを週2回に増やして筋力アップを図り、腕や太ももはひと回り大きくなった。復帰戦からわずか1か月でタイムを0秒7縮め、本人も「驚きだった」というほど順調な復活ロードを歩む。

 自分のペースで調整を続けてきた池江は、プール外の仕事もこなせるようになってきた。先月7日からはヤクルトの新CMに出演。同社は日本水連の代表チームのオフィシャルパートナーを務めている。今回の起用理由については明かさなかったが、池江のマネジメント事務所関係者は「長年ご支援いただいている中、復活して競技もスタートできるようになったので、今回お声掛けいただき、喜んで出させていただきました」と説明。新型コロナウイルス禍ということで撮影も慎重に行われたようだ。

 順調な復帰ロードを受けて〝池江需要〟も高まっている。CM事情に詳しい関係者は「どこの企業も考えることは同じだと思う」とした上で「(7月23日に国立競技場で開かれた)東京五輪1年前イベントがいい例で、『病気からの復帰』というサクセスストーリーは幅広い共感を得られるはず。池江さんを起用したい企業が増えても不思議ではない」と指摘。当然、体調やコロナなど配慮すべきことはあるが、今後は様々な場面で白羽の矢が立つかもしれない。

 さらには、不倫騒動でANAから所属契約を解除されるなど四面楚歌の〝瀬戸際エース〟瀬戸大也(26)も救う可能性まである。大手広告代理店関係者は「もちろん池江選手は今回の瀬戸選手の問題には全く関係がない」と前置きした上で「P&Gは米国の企業ということもあり、この手の問題には非常に敏感。しかも主婦層を対象にした商品を扱っているだけに、瀬戸選手の無責任な行動には激怒していると聞く」と話す。

 P&G社は昨年10月に東京五輪の応援キャンペーンの日本代表アンバサダーとして瀬戸と契約。CMにも起用していたが、今回の騒動を受けてウェブ動画は非公開となり、テレビ放映は中止となった。顔に泥を塗られた形となる同社の怒りは想像に難くないが、今後に向けた対応で池江の存在がカギになるという。

「子会社が展開している『SK―Ⅱ』は池江選手を強く支援している。ようやく池江選手が本格的に復帰してきたところで、P&Gは水泳界全体のイメージが悪くなることだけは避けたい。そうなると、今回の件で瀬戸選手を必要以上に追い詰めることはしないかもしれない」(同関係者)

 P&Gの系列企業が展開する化粧品ブランドのSK―Ⅱは、5月に池江とパートナーシップ契約を締結してサポートする。同社は池江との関係を重視し、活躍の舞台となる競泳界全体を盛り上げようとしている。そんな状況で、瀬戸の騒動で競泳界のイメージ低下は本意ではない。契約解除や巨額な違約金請求となれば、そこでまたマイナスイメージがクローズアップされるだけに、そうした厳罰を回避して瀬戸に復活の機会を与える〝恩赦〟にかじを切る可能性があるというのだ。

 もちろんそれだけ、池江の影響力が大きいということ。2024年パリ五輪に向けて池江の「第2の水泳人生」は始まったばかりだ。