美しいジャンプの秘密とは――。フィギュアスケート男子で五輪2連覇の羽生結弦(27=ANA)が1日に日本スケート連盟を通じ、新シーズンに向け「より高みを目指して頑張ります」とコメント。現役続行への期待が高まった。そんな中、世界中のファンを魅了し続ける羽生のジャンプに再注目。運動療法に詳しい早稲田大スポーツ科学学術院の金岡恒治教授を直撃し、北京五輪金メダルのネーサン・チェン(23=米国)を超える〝美ジャンプ〟の仕組みに迫った。
この日、羽生は連盟を通じ「いつも応援いただき本当にありがとうございます。今シーズンもより高みを目指して頑張ります」とコメント。現役続行とも受け取れる言葉に、国内外のファンが喜んだ。
多くの人を引きつける要因の一つが美しいジャンプだ。チェンも圧巻のジャンプを誇るが、金岡教授は「(羽生は)回転時に体が一直線だし、体形的に羽生選手の方が細いので、1本の線のように見える。きれいさからいくとチェン選手より羽生選手の方が上だと思うし、チェン選手も同じふうにはできないと思っているのではないか」とライバルも認める美しさだと指摘した。
もちろんチェンの強みについても「回転力はチェン選手の方があるかもしれない。回転時は足で蹴って回るが、腹斜筋(腹の横にある筋肉)も重要になる。跳び出す時はひねりの力を生むため、着地の時には真っすぐ止まるために働くので、腹斜筋は羽生選手よりも強いのではないか」と分析したが、美しさでは羽生に軍配が上がる。
専門家も舌を巻くほどきれいなジャンプを跳ぶ秘訣は、羽生の骨盤の位置にあるという。「骨盤が後ろへ傾く(後傾)と背骨が真っすぐになる。体幹筋(体幹を支える筋肉)に力がうまく入らないと骨盤が前傾してしまうけど、うまく働くと背骨が一直線になる」。体が反った状態より、真っすぐな状態の方が回転の効率は向上する。羽生のジャンプは、まさに理にかなった動きというわけだ。
また、羽生が回転時に使用する筋肉の使い方は、バレリーナのような繊細さを兼ね備えている。一流のバレリーナはインナーマッスルの一つとされる腹横筋(腹式呼吸のときに最も働く筋肉)が優れている傾向があり、羽生の腹横筋も同様のポテンシャルを秘めている可能性があるという。
「一流のバレリーナは回転時に腹横筋が厚くなることで安定して回転できるので、羽生選手の腹横筋もすごいと思う。それは腹横筋が強いとか弱いとかではなく、回転する瞬間にうまく力が入るので、上手に軸を安定させられるし、真っすぐにしないといけない瞬間に腹横筋が働く。オンとオフがきっちりできている」。状況により筋肉を使い分けているというから、まさに職人技だ。
今シーズン、どのような形でファンの前に姿を現すか注目の羽生。専門家も認める美しいジャンプで、まだまだ世界中を魅了しそうだ。