フィギュアスケート男子で五輪2連覇の羽生結弦(26=ANA)が世界選手権(24日開幕、スウェーデン・ストックホルム)に出場する。昨年大会は新型コロナウイルス禍で中止。2年ぶりの大舞台でも、これまで通り大きな期待を担う。そこで全日本選手権男子シングル4連覇(1983~86年)の記録を持つ審判員の小川勝氏(56)を緊急直撃。審判目線から見た羽生の強さと魅力、“絶対王者”だけがまとう「オーラ」に迫った。

 これまで打ち立てた金字塔は数え切れない。2014年ソチ&18年平昌の五輪2連覇、14年と17年の世界選手権V、13~16年グランプリ(GP)ファイナル4連覇。フィギュア界の枠を飛び越え、スーパースターの地位を確立している。

 比類なきカリスマに対し、全日本4連覇の小川氏は「王者という存在になると葛藤が生まれる。守りに入りたいけど、攻めなきゃいけない。その板挟みの連続。しかも羽生選手は世界のトップですからね」と感服する。

 同氏は1987年に引退し、現在は歯科医として活躍。一時代を築いた元王者として外からフィギュア界を眺めつつ、羽生の強さを再確認している。

「よく言われるのが、記録に残る王(貞治)さんタイプか、それとも記憶に残る長嶋(茂雄)さんタイプか。僕は記録には残ったけど…。羽生選手は記録と記憶の両方。すごいのひと言ですよ」

 では、どこに強さが潜むのか。全日本審判の経験を持つ小川氏は“ジャッジ目線”でこう分析する。

「どの審判が見ても美しいスケートをする。要するにケチのつけどころがないんですよ。例えば、苦手なジャンプをプログラムに入れずに得意分野だけで勝負する選手もいますが、羽生選手は全てのジャンプを非の打ちどころなくきれいにこなす。ここはもっと評価してあげなければいけない」

 また、年を重ねるごとに輝きを増すものもあるといい、小川氏は「以前よりものすごく丁寧に滑っていますね。ジャンプだけではなくすべて。ソチ五輪のころはミスもあったけど、イケイケで乗り切った。でも、今は一つひとつの動作で間をとり、ひと呼吸置いて次に行く。足元にしっかり演技を感じ取って滑っています」と話す。

 さらに、王者が醸し出すオーラにも注目する。「言葉で表現しづらいですが、審判って選手が氷の上にパッと立った瞬間にオーラを感じ取ることがある。羽生選手には『俺はチャンピオンだぞ』という存在感がある。緊張と自信が半分ずつ、圧倒的な雰囲気が漂っています。当然、審判の心理にも影響しますよ」

 今大会は3連覇が懸かるライバル、ネーサン・チェン(21=米国)との一騎打ちに注目が集まるが、小川氏は「今回は勝ち負けよりも、(来年の)北京五輪を見据えて演技をするはず。ネーサンに勝とうが負けようが関係ない。1年後に自分がどんな評価を得られるか?の逆算。他の選手とは考えている次元が違いますよ」との展望を語った。

 羽生は22日(日本時間23日)、夜からサブリンクで初の公式練習を行った。マスクを着用したままの調整となったが、複数種類の4回転を跳ぶなど軽快な動きを披露。男子ショートプログラム(日本時間25日午後7時30分~)では、どんな滑りを見せてくれるのか。勝敗を超越した王者の挑戦が始まる。