法廷で“キックオフ”の笛が鳴った――。2014年のサッカーW杯ブラジル大会・日本代表DF伊野波雅彦(33=J1神戸)が、08年の北京五輪代表MF梶山陽平(33)に民事提訴されていたことが本紙の取材で分かった。実業家X氏が運用する投資を伊野波から「月利7%の配当をする」などと勧められて始めたが、計2500万円を失ったとして梶山は提訴。他にも被害者がおり、被告となった伊野波は、X氏とともにその損害賠償を請求されたのだ。元日本代表が元Jリーガーに訴えられた前代未聞の投資トラブルを詳報する。

 伊野波は、FW本田圭佑(32=メルボルン・ビクトリー)、FW香川真司(29=ドルトムント)らとともに「史上最強」とされた14年W杯日本代表のメンバーだった。

 所属の神戸では今季のリーグ戦終盤からアンカーに起用され、話題を席巻した元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(34)、元ドイツ代表MFルーカス・ポドルスキ(33)の2大スターを後方から支えた。

 一方、梶山はフル代表に呼ばれなかったものの、08年北京五輪ではメンバーだった本田、香川を差し置いて背番号10を託された“天才MF”。だが、FC東京からJ2新潟にレンタル移籍した今季限りで現役を引退した。2人は同い年で、北京五輪のアジア予選メンバーで親交があった。

 トラブルが起きた発端は昨年8月だった。裁判資料によると伊野波は梶山に対し、友人で実業家のX氏が運用する月利高配当をうたった投資に勧誘。「大丈夫だから」「万が一の時は俺が保証する」と説得したという。

 勧めに乗った梶山は同月から出資を開始し、今年1月までの間、X氏に複数回にわたって計2500万円をつぎ込んだ。リーグ戦の最中だったが、伊野波は試合や練習に支障のないよう合間を縫い、梶山の出資の立会人を務めたという。

 一方で伊野波は昨年6~9月、友人の一般男性も同じように勧誘。「自分もある程度の額を(X氏に)預けている」「梶山も(X氏を通して)運用している」と勧めたという。一般男性は今年3月までの間、複数回にわたり、X氏になんと総額8500万円を投じたという。ここでも伊野波は立会人を務めていた。

 投資後、一時的に梶山と一般男性への配当はあったが、今年6月以降、配当が停止する。X氏が出資金を全額溶かしてしまった可能性がある。

 それを受け、伊野波は6月、梶山に「元本は必ず(X氏から)返させる」と伝え、X氏に対応を迫った。ところが、伊野波は7月、X氏から「投資リスクが顕在化して配当できない」と主張され、梶山と一般男性への返金には「応じない」と通達される。焦りまくった伊野波はX氏を「無責任すぎる」と追及したものの、その後はX氏と音信不通になった。

 事態は改善しないまま、伊野波はX氏とともに、梶山と一般男性から東京地裁に民事提訴され、損害賠償を請求された。

 被告である伊野波とX氏は、原告の梶山から2750万円、もう1人の原告の一般男性から9350万円の支払いを突き付けられた。総額1億2100万円の巨額訴訟だ。

 第1回口頭弁論は今月4日、東京地裁で開かれた。伊野波、梶山はともに欠席。伊野波とX氏は原告の請求棄却を求め、争う構えを示した。

 伊野波の代理人弁護士は本紙に「X氏に対する債権回収に巻き込まれた不当な訴訟であり、法的責任は一切なく、裁判所に請求棄却を求めています」と回答。X氏側は裁判の中で「原告に配当してきた実績はあったが、投資運用の結果として利益を生み出せず、配当がかなわなくなった。投資リスクが顕在化したにすぎない以上、法的責任を負担するいわれはない」(弁護士)と主張している。

 原告の梶山の代理人弁護士は「係争中なのでお答えできません」と回答した。

 梶山側は、X氏の運用実態を疑問視しているようだ。これが事実であれば、いかがわしい投資に伊野波は“加担”してしまい、梶山も安易に乗ってしまった形だ。

 X氏がうたっていた月利は7~10%といい、あり得ない高配当。ウマい話にはウラがある――と考えれば巨額のカネを突っ込むことはないはずだが…。構図としては伊野波はX氏に“広告塔”のように利用されたとも考えられる。

 次回期日は来月24日、弁論準備手続きが行われる。(一部敬称略)

【元本保証うたい出資持ちかけたなら伊野波に賠償責任も】投資トラブルに詳しい司法ジャーナリストはこの裁判について「最初から運用などしていないにもかかわらず、(別の出資者から)集めた金を元手に配当し、途中で配当されなくなるのは、ポンジスキームと呼ばれています。有名人を広告塔や集客マシンにするケースは多く、伊野波選手は利用された可能性が高い。伊野波選手には法的責任が問われない可能性はあります」と指摘する。

 その一方で「元本保証をうたう出資の持ちかけであれば出資法違反になる可能性があります」。伊野波が梶山、一般男性に元本保証をうたい勧誘したと認められれば、賠償責任が問われることもあるという。