【久保康生 魔改造の手腕(27)】いかにして、メッセンジャーが角度のついた威力あるボールを身につけたかは、前回のコラムで説明しました。

 こういった技術的なことは文章にすると非常に説明が難しいのですが、今回は紙面をお借りして詳しく解説したいと思います。

 ボールとの距離を測りづらく、なおかつ威力があり、バットスイングで軌道を捉えにくい投球を生み出すにはどうすればいいのか。

 真上から垂直に落ちてくるボールを通常のバットスイングで捉えることが困難なのは、お分かりいただけると思います。さらに、引力があるため、落下していくほどボールの加速度は上がります。

 投手のボールは前から向かってはくるのですが、同時に引力にも引っ張られて加速しながら落ちていきます。この原理を実際の投球に活用することが非常に重要なのです。

 私が選手たちに繰り返し実施するよう伝えてきたドリルがあります。これは私の手を離れても、スタンリッジをはじめ多くの投手が実践してくれています。

 至近距離で少し前に置いてある缶や桶にボールを入れることを想像してください。右投げの人なら左足を踏み出して、その入れ物にほぼ真上からアプローチしていって、上からボールを落とし込むイメージになると思います。

 バスケでいうダンクシュートではないですが、特別に意識をしなくても重力を利用して真上からボールをそのままリリースする形になるはずです。

 次にその缶から少し離れて、同じように角度をつけて真上からボールを目標に叩き入れるイメージで投球します。これを少しずつ距離を広げて繰り返します。

 イメージをしっかり身につけるために、とにかく上からボールを自然に落とすイメージで、短い距離でのネットピッチを繰り返します。この延長を正規の距離18・44メートルで行えればいい。しっかり腕を縦に振った上で、地球の引力を利用し、角度のついたボールを投げることができるようになります。

 難しい技術ではありません。自然の摂理に合ったことを実行しているだけですから。この原理原則を知って投球するか、そうでないかでは大きな差が出ます。

 一流の打者が3割打つとすれば、投手は7割抑える領域を持っています。投手は7割以上成功しないといけないんです。これが7割5分、それ以上に打者を抑えれば「稼げる投手」になれるわけです。

 わずかな差で野球の結果は大きく変わります。ボールをどの角度からどういうアプローチでストライクゾーンに通していくのか。

 自然の原理を応用し力のある、打者に見づらいボールを投げることができるのか。原理を知って納得した上で技術を身につければ、精神面でも安定します。勝つ確率は断然、投手の側にあるんだということを理解してもらいます。

 このメソッドは特に背の高い投手に有効です。身長に加えてマウンドの高さ、角度を利用して落下速度を得ることができる。これを理解して投げることが得策なんです。

 メッセ、スタンリッジだけではなくJ・P(ジェレミー・パウエル=2002年に近鉄で17勝し最多勝、183個で奪三振王)もこういった考え方を理解、活用してくれた一人です。

 1年間、中6日で15勝すれば数億円になる仕事なんです。技術、コツを身につければ、あとは自分の体を壊さないように投げ続けるのみ。NPB10シーズン7度の2桁勝利、通算98勝のメッセはジャパニーズドリームをつかみましたね。

 ☆くぼ・やすお 1958年4月8日、福岡県生まれ。柳川商高では2年の選抜、3年の夏に甲子園を経験。76年近鉄のドラフト1位でプロ入りした。80年にプロ初勝利を挙げるなど8勝3セーブでリーグ優勝に貢献。82年は自己最多の12勝をマーク。88年途中に阪神へ移籍。96年、近鉄に復帰し97年限りで現役引退。その後は近鉄、阪神、ソフトバンク、韓国・斗山で投手コーチを務めた。元MLBの大塚晶文、岩隈久志らを育成した手腕は球界では評判。現在は大和高田クラブのアドバイザーを務める。NPB通算71勝62敗30セーブ、防御率4.32。