【久保康生コラム】今岡との会話でのヒントから杉山はローテ投手に!

2022年01月07日 11時00分

完封勝利の杉山(左)をたたえる今岡(東スポWeb)
完封勝利の杉山(左)をたたえる今岡(東スポWeb)

【久保康生 魔改造の手腕(24)】打者目線で見づらい投球。自分自身がどれだけ素晴らしい球を投げていても、バッターから見やすいと打たれてしまいます。

 前回まで2009年から覚醒した能見篤史の話をしてきました。もともと、きれいなオーバースローでフォークを投げるピッチャーですが、打者目線での目の錯覚を使えていませんでした。

 ボールは素晴らしいはずなのに、フォームが、球筋がきれいすぎて、コントロールが良すぎて打たれてしまう。どんなに鋭い武器でも、その動きや軌道が分かりやすければ強敵には通用しません。

 打者目線という観点でいえば、05年の阪神V戦士に大いに助けられた場面がありました。優勝したそのシーズンの2月のキャンプ中、紅白戦を行った時でした。

 02年ドラフトで龍谷大から自由獲得枠で阪神に入団。3年目を迎えていた杉山直久(独立リーグ富山、オリックス一軍マネジャー)が、いいボールを投げるのになぜか打たれる。

「なんでこんなに打たれるわけ?」と当時、主力打者だった今岡誠(阪神、ロッテ)に素朴な疑問を投げかけたら、明快な答えが返ってきました。

「とにかく球筋が見えるんですよ。打者目線で見ると、すごく見やすいので」

 今岡は03年の首位打者です。さらに、このシーズンは5番に転向し球団記録の147打点を叩き出し、打点王にもなりました。リーグ屈指の打者の言葉には説得力があります。

 そこで、杉山の良さを残したまま、どうにかならないものかと考えました。当時、一緒に投手コーチをしていた中西清起とも相談した結果、投球時の左手のグラブを高く上げるようにフォーム修正しました。左手を上に上げて、今度はその反動で投げ下ろすイメージです。このフォームを定着させると、杉山の投球がすごく良くなりました。

 打者目線で見ると「とにかく球筋が見える」フォームではなく、ボールの出どころが見づらく、いきなり飛んで出てくるような感覚の投手になっていました。
 このシーズン、杉山は先発ローテの一角を勝ち取り9勝を挙げました。5月18日の交流戦、西武戦(甲子園)では同い年の松坂大輔との投げ合いを制し勝利投手となりました。

 リーグ優勝に貢献し、日本シリーズでも登板を経験。杉山にとって素晴らしいシーズンになったはずです。オフの契約更改では年俸も大幅にアップし(当時の報道では1500万円から3200万円)稼げる投手になったわけです。

 当時の今岡からの助言は非常に大きいものでした。杉山だけに限らず、いい打者からの助言にはヒントが多く隠されています。

 きれいなオーバースローで投げていた能見が、腕を下げスリークオーターにフォームを変更した際にも、打者目線を意識した杉山の成功例が生きました。
 今岡との会話があり、杉山の成功例があり、能見の覚醒への伏線とつながっていく。

 いいフォームを作る段階から、対打者目線、そして試合に入っていく形でそれぞれのステージに移行していく。今回の杉山、セットアッパーから先発転向した安藤、チームのエースに成長していった能見の件も、それぞれ違うように見えて事例としてはよく似ているんです。

 打者から見てボールに角度をつける。目線が平らなフラットボールになってしまうと格段に打者から見やすくなります。角度といってもピンとこない方も多いかもしれませんが、そのあたりも次回以降に説明させていただきます。投球に角度がある投手。打者が見づらい投手。それがお金を稼げる投手です。

 説明しやすい事例として、次回からは多く接してきた外国人投手についてお話ししたいと思います。

 ☆くぼ・やすお 1958年4月8日、福岡県生まれ。柳川商高では2年の選抜、3年の夏に甲子園を経験。76年近鉄のドラフト1位でプロ入りした。80年にプロ初勝利を挙げるなど8勝3セーブでリーグ優勝に貢献。82年は自己最多の12勝をマーク。88年途中に阪神へ移籍。96年、近鉄に復帰し97年限りで現役引退。その後は近鉄、阪神、ソフトバンク、韓国・斗山で投手コーチを務めた。元MLBの大塚晶文、岩隈久志らを育成した手腕は球界では評判。現在は大和高田クラブのアドバイザーを務める。NPB通算71勝62敗30セーブ、防御率4.32。

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