【広瀬真徳 球界こぼれ話】日本ハムの新監督に新庄剛志氏が就任することが正式に決まった。

 栗山監督の退任が明らかになって以降、新庄氏の名前が監督候補に挙がると、野球ファンの間では待望論が湧き上がる一方、一部球界関係者の間では「大丈夫か?」という声が飛び交った。日米を股にかけた実績は申し分ないものの、新庄氏といえば「奇想天外」で知られる。何をするかまったく読めない奇抜な発想の持ち主だけに、現役時代に本人とプレー経験のある元選手ですら「ファンを楽しませるチームはつくれるとは思うが、監督として強いチームをつくることができるのか…」と不安を口にしていた。

 確かにこれまでのメディア等での言動を見れば指揮官としてチームを率いる姿は想像しにくいかもしれない。それでも個人的には監督の器は十分あるように思える。

 新庄氏が米メジャーで活躍していた当時、取材を通じて本人の野球観や野球に対する姿勢を何度か聞いたことがある。その中で特に印象に残っているのが、一切ネガティブなことを考えず「やってみないとわからないでしょ」という言葉を多用していたことだ。とにかく前向きで、報道陣の質問にも絶対に「それは無理」という弱音を発しなかった記憶が鮮明に残っている。

 2001年に米メジャーへの挑戦を決断した際も周囲は「無理なんじゃないか」という声が圧倒していた。本人の耳にもそうした雑音は入っていたはず。そんな逆境の中でも平然と自分の信念を貫いた結果、予想に反して開幕メジャー入りを勝ち取った。シーズンでは最終的に打線の中軸を任されるまでに至った。トレードで移籍した02年のSFジャイアンツでは日本人選手として初のワールドシリーズに出場。第1戦で先発出場し、同シリーズでの日本人初安打も放った。

 こうした高い目標にあえて立ち向かう新庄氏の行動力は3年連続Bクラスに沈む日本ハムの選手、特に若手選手には大きな刺激を与えるはず。そこに新庄氏のあり余る発信力が加われば、チームや選手は球界だけでなく世間からも注目を浴びる。おのずと選手たちは周囲の視線を意識しはじめ、野球への取り組み方も一変する可能性が高い。そうなれば今季のオリックスのようにチームはBクラスからの脱却、リーグ優勝も夢ではないだろう。

 日本ハムは長年フロント主導によるチームづくりが行われているが、その要を担うGM職に球団SCO(スポーツ・コミュニティー・オフィサー)の稲葉篤紀氏が就任した。現役時代の同僚で新庄氏を熟知する稲葉氏がフロント陣とのパイプ役となれば新庄氏が描くチームづくりも円滑に進むはず。

 不安どころか期待しかない日本ハムの監督人事。閉塞感が漂っていたチームを一新させるためにも新庄氏のユニホーム姿を早く見てみたい。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。