米国映画には様々なジャンルがあるが、多くの名作を生んだのが特異な背景を持つマフィア映画だ。1900年代初めにイタリアから米国に移住して「ファミリー」を築いた絆、悲哀と苦悩、複雑な人間関係、警察との戦い…様々なドラマが深く描かれている。今回は米国を代表する「マフィア映画名作5選」をお届けします。

 イタリアから米国に移住した「ファミリー」のドラマ

【ゴッドファーザー(1972)】

「ゴッドファーザー」
「ゴッドファーザー」

 フランシス・フォード・コッポラ監督による不朽の名作。ハリウッドの有名プロデューサーはマフィア側の要求を一蹴した翌日早朝、奇妙な不快感に目が覚める。シーツをめくるとそこには…。暴力描写を使わずに戦慄を生み出すのが「ゴッドファーザー」だ。

 寝室シーンのベッドサイドにはオスカー像が見える。同作はアカデミー賞を3部門受賞。マーロン・ブランドが拒否した主演男優賞以外は作品賞と脚色賞だったが、ブランドがクリスマスに襲撃された時には、青果店に若きボクサー“レイジング・ブル”ジェイク・ラモッタの試合ポスターが飾られるなど、時代色を出したプロダクションデザインも凝ったものになっている。

 入院中の父ヴィトーの危機を自らの機転で回避したマイケル(アル・パチーノ)は病院前で悪徳警部に殴られる。それ以降、登場シークエンスのたびに彼のあざは緑、青から黄へとわずかに変色してゆく。当時アカデミー賞にメイクアップ部門はない。あれば4冠だった。

 クロスカッティング――同時間帯で起きている複数のシーンを交互に見せる編集技法だ。冒頭25分以上にも及ぶ結婚式の裏で行われる闇の相談事、そしてクライマックスには厳粛な洗礼式と凄惨な暗殺がつながれてゆく。腕に抱かれる聖なる赤子(ソフィア・コッポラ!)、一方では狙撃者の手中に邪悪な拳銃。両者を対比させる5分間の手法には息をのむしかない。

 最後のシーン、セリフはかすかに聞こえる新しいボス(パチーノ)に対する「ドン・コルレオーネ」という忠誠の言葉のみ。扉を閉ざされた妻コニー(ダイアン・キートン)の表情には安堵から不安、疑念、察知、諦念が込められており、それはマイケルの孤独の始まりでもあった。名作とは何も語らずとも、かくも雄弁なものなのか。敬服するしかない。

【フェイク(1997)】

 マフィア壊滅のため6年間、潜入捜査に人生をかけたFBI捜査官の実話を描く。

 FBIのジョー・ピストーネ(ジョニー・デップ)は宝石鑑定屋と身分を偽り、マフィアがたむろするカフェの常連に。ある日、構成員のレフティ(アル・パチーノ)が借金のカタにせしめた指輪が偽物と見抜いたことを契機に彼の弟分となる。レフティの後ろ盾を得て潜入捜査は成果を上げるが、組織に予期しなかった内部抗争が勃発して…。

 約30年も組織に仕えながら、出世とは無縁な男の悲哀を表現するパチーノの演技は絶品。互角に渡り合う若きデップの演技も見事だ。死と背中合わせの状況下で捜査の成果を上げる一方、妻と3人の娘の心は次第に離れていく。仕事と家庭、偽のマフィアという立場により正義が揺らぐ苦悩や葛藤を見事に演じ切っている。

「シザーハンズ」「パイレーツ・オブ・カリビアン」などの特異なキャラクターで人気を誇るデップだが、根幹を支える揺るぎない演技力はこの作品で証明されている。

【アンタッチャブル(1987)】

「アンタッチャブル」
「アンタッチャブル」

 1930年代、禁酒法下の米シカゴを支配する暗黒街のボス、アル・カポネ(ロバート・デ・ニーロ)と、捜査官エリオット・ネス(ケビン・コスナー)の壮絶な戦いが描かれる。

 着任早々のガサ入れが失敗に終わったネスは警察内部からの情報漏えいを疑い、老警官ジム・マローン(ショーン・コネリー)に協力を求め、自らスカウトした4人でチームを結成。闇金の流れからカポネを追うのだが…。

 監督は傑作「ミッション‥インポッシブル」を手掛けたブライアン・デ・パルマ。暗殺者の目線でターゲットを狙う長尺のカメラワーク、駅での銃撃戦では鮮明でリアルなスローモーションモードを使うなど、独特の映像表現は圧巻だ。音楽は「荒野の用心棒」「ニュー・シネマ・パラダイス」で名を上げたエンニオ・モリコーネ。衣装担当はジョルジオ・アルマーニ。プロ中のプロが揃った名作である。

【パルプ・フィクション(1994)】

「パルプ・フィクション」
「パルプ・フィクション」

 アカデミー賞脚本賞を獲得したクエンティン・タランティーノ監督の傑作だ。

 冒頭には強盗を狙うカップルが登場。続いてジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)とビンセント(ジョン・トラボルタ)のギャングコンビが、ボスのアタッシェケースを取り戻すためアパートの一室に向かう。ビンセントは出張に出るボスから新婚の妻ミアが退屈しないよう外に連れ出してくれと頼まれる。そしてボスとの八百長の約束をほごにしたボクサー、ブッチ(ブルース・ウィリス)は大金を手に入れるが、逃走先でボスとバッタリ…。

 バラバラのエピソードが時系列にとらわれることなく、絶妙の構成でつながれながらエンディングへ向かう。見事なほど逆転に次ぐ逆転の極上クライム・エンターテインメントに仕上がっている。

 ジュールスが暗殺を犯す際に聞かせる聖書「エゼキエル書25章17節」は、ほとんど千葉真一主演作「ボディガード牙」冒頭のモノローグ。ビンセントとミアのダンスシーンはフェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」そのものだ。タランティーノの映画オタクぶりが随所に発揮された傑作だ。

【グッドフェローズ(1990)】

「グッドフェローズ」
「グッドフェローズ」

 映画から学べることはいつでもある。監督は名匠マーティン・スコセッシ。法は犯しても構わないが、守らねばならないおきてがファミリーにはある。仲間を売るな、口は閉じておけ。マフィアの下で働く少年ヘンリーは、この2つを実践して信頼を得ていく。しかし当のファミリー連中は欲まみれ。気に入らないやつはあっさり始末して身内も出し抜く。ファミリーへの忠誠の証しである利き腕の小指の指輪が大きくなるにつれ、ヘンリーの精神は不安定になっていく。

 極道は結局極道、それでも低劣ぶりにも不快感が起きないのはテンポの良い音楽と撮影技術のおかげか。R&B、ドゥーワップ、ロック、ブルースなどが、さながらジュークボックスのように流れ続ける。

 そしてカメラワーク。後に大物となったヘンリー(レイ・リオッタ)が後の妻カレンを連れてナイトクラブの行列を避けるため、裏口から厨房を抜け特設の最前席に座るまでを長い3分間のワンショットで見せる。

 終盤にヘンリーが兄貴分ジミー(ロバート・デ・ニーロ)とダイナーで待ち合わせをした際は、カメラを移動させながら同時にズーム操作を行うドリーズームでヘンリーの内心の不安を暗示する。さらにジミーに老眼鏡をかけさせることで瞳をアンバランスに大きくし、ヘンリーの心理的倒錯感を強調する演出が光る。

 陰の主役である組織の盟友ジョー・ペシ(トミー役)はアカデミー賞助演男優賞を獲得した際にわずか2秒でスピーチを残してステージを降りた。「イッツ・マイ・プリヴィレッジ。サンキュー」

 光栄なのは彼を見られた我々のほうだ。ありがとう。