「15席でいいじゃん」――。福岡市南区・大橋にある「Yet Cinema Club(イェットシネマクラブ)」は、小規模上映と読書空間「fuzkue 大橋(フヅクエ おおはし)」を組み合わせ、“鑑賞する時間”そのものを重視した場所だ。主宰する川﨑陸さん(34)は、映画館でもカフェでもない、“文化が続いていく状態”そのものをつくろうとしている。
川﨑さんは現在も企業でUIデザインやブランディングの仕事を続けながら、この空間を運営している。ただ、その原点は、映画や本に囲まれた幼少期にあったわけではない。父親は厳格で、「テレビとか映画は見るなって言われてました」と振り返る。本もほとんど読まなかったという。その後、10年以上も東京で生活する中で状況は一変した。渋谷のユーロスペースやシアター・イメージフォーラムなど、ミニシアターへ通い、年間100本以上の映画を見る生活を送った。「作品を見ることで、自分の考え方とか、世界の見方が変わる可能性があるってことを教えてくれた」。福岡へ戻った後、その体験を地元でも形にしたいと考えるようになった。その延長線上にあるのが、現在の空間づくりだ。
その思想を象徴するのが、約30平方メートルという日本最小規模の上映空間だ。「ミニシアターに行っても、15人も入ってるところ見ないんで」。一般的なシネコンのように“席を埋める”発想とは少し違う。「ここで上映しているから見る」。その状況自体をつくろうとしている。上映作品も「つつんで、ひらいて」「なぜ君は総理大臣になれないのか」など、シネコンでは出合いにくい作品が並ぶ。5月には、ホン・サンス監督の「旅人の必需品」「自然は君に何を語るのか」など5作品特集も企画。高校生からの要望を受け、学割料金も見直した。「変わるのが健全だと思ってるので」と語り、固定的な色を打ち出すつもりはない。
背景にあるのは、福岡の文化環境への問題意識だ。川﨑さんは「若い世代が映画や読書に触れる機会が十分つくられてこなかった」と感じているという。だからこそ、この場所は“若い人のため”につくっている。「ミニシアターで映画を見ることが、カッコいいことだって思ってもらえるムードをつくりたい」。クラウドファンディングでは約300人から460万円超の支援が集まったが、「何百回リツイートされても、その時お客さん0人とか普通にあるんで」と、現実も冷静に見ている。それでも、上映後に残った観客へコーヒーを出しながら話す時間には手応えもある。「映画館でこんなに人と話したの初めてって言われたこともありました」。ただ映画を見るだけでは終わらない空間を目指している。
併設するフヅクエでは、ベイクドチーズケーキやブレンドコーヒーも提供する。どちらも、読書空間で落ち着いて過ごす時間に寄り添うものだ。それでも続ける理由について、「僕が何もしなくても回る状況をつくれたら、それってカルチャーが成立してるってことだと思うんです」と語る。最後に「文化をつくるとは何か」と聞くと、「未来の世代への責任ですね」と少し間を置いて答えた。「過去の自分を救うようなものだと思う」。小さな空間から始まった挑戦は、福岡の映画文化に、新しい景色を生み出そうとしている。














